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「あかり」の現状について 観測開始から1年、「あかり」が見た宇宙

「あかり」の概要

「あかり」衛星

  • 日本初の赤外線天文観測専用衛星
  • 高度約700km太陽同期極軌道
  • 長さ 3.7m、重さ 952kg
  • 口径68.5cmの反射望遠鏡
    液体ヘリウムと冷凍機で極低温冷却
  • 目的:全天の赤外線観測による宇宙の赤外線地図作り銀河、星・惑星系の誕生と進化を追う

これまでの経過

  • 2006年2月22日、M−Vロケット8号機により打上げ
  • 2006年4月13日、望遠鏡の蓋を開き試験観測を開始
  • 2006年5月8日、本観測を開始
  • 2006年11月、 全天観測(第1回目)を終了

JAXA「あかり」プロジェクトは、主に以下の機関の協力で実施。
名古屋大学、東京大学、自然科学研究機構・国立天文台、欧州宇宙機関(ESA)、英国Imperial College London、University of Sussex、The Open University、オランダUniversity of Groningen/SRON、韓国Seoul National University。なお、遠赤外線検出器開発では情報通信研究機構の協力を得ている。

「あかり」の現状と到達点

  • 2006年5月の観測開始から1年以上の観測(フル成功基準の要求)を達成
  • 全天観測による宇宙の赤外線地図作り(6波長帯で連続的に天球を走査)
    • 2回以上観測した天域が、全天の90%を超えた
      • 赤外線天体検出の信頼性を上げるため、2回以上の観測を要求
      • 月に隠される等により2回の観測ができなかったところは今後観測
    • IRAS衛星による宇宙地図を24年ぶりに高解像度で書き換え
      (IRAS: 米、蘭、英により1983年に打上げられた世界初の赤外線天文衛星)
  • 指向観測(10分間程度望遠鏡を固定し、詳細観測)
    • 1年間で約3500回の観測を実施
      • 北黄極、大マゼラン銀河の大規模な高感度サーベイ
      • 黄道光、星間物質、星・惑星系形成、晩期型星、活動的銀河核/赤外線銀河、宇宙背景放射等、15項目の観測計画に基づく系統的観測
      • 観測機会の一部に対して、日韓欧の研究者を対象とした公募観測を実施
      • 初期成果の一部は、今年3月に東京大学より報道発表。8月頃に、名古屋大学からも発表予定。

今後の見通し

  • 液体ヘリウムで望遠鏡を冷却しての観測(波長2〜160μm)は、少なくとも9月初旬まで継続できる見込み
  • 液体ヘリウムをすべて消費した後は、冷凍機のみの冷却により、近赤外線(波長2〜5μm)の観測継続を検討中(エクストラ成功基準の項目)

全天観測で「あかり」が見た宇宙

※「あかり」データからの画像作成は、図1, 2は東京大学・石原大助氏、図3, 4は東京大学・土井靖生氏による。

波長9μmの全天画像

[より高解像度の画像]

図1 波長9μmの全天画像解説はこちら>>
「あかり」観測装置の一つ近・中間赤外線カメラによる観測。図の中央が銀河系の中心方向。横に細長く伸びているのが赤外線で見た天の川。銀河系の星間空間にある塵が星の光で暖められて放射する赤外線が見えている。
元になったデータは、これまで使われてきたIRAS衛星による宇宙地図よりも数倍高い、約9秒の解像度を持つ。
「あかり」はこの他に、波長18μm, 65μm, 90μm, 140μm, 160μmで全天観測を行っている。

波長9μmの全天画像の上に、星座と、星形成が活発な暗黒星雲がある領域等を示す。

[より高解像度の画像]

図2 波長9μmの全天画像の上に、星座と、星形成が活発な暗黒星雲がある領域等を示す。解説はこちら>>
星図は株式会社アストロアーツのステラナビゲータを利用し、名古屋市科学館によって制作された。

波長140μmで見たオリオン座と冬の天の川(光学写真提供:国立天文台 福島英雄)

[より高解像度の画像]

図3 波長140μmで見たオリオン座と冬の天の川解説はこちら>>
左が可視光の写真、右が赤外線の画像。画角は縦方向が40度に及ぶ。濃い水素ガス雲中の塵が、新しく生まれた星の光で暖められて強い赤外線を放っている。IRASの観測波長は100μmまでであり、波長140μmの赤外線では世界初の画像である。(光学写真提供:国立天文台 福島英雄)

はくちょう座にある星形成領域

[より高解像度の画像]

図4 はくちょう座にある星形成領域(波長90μmと140μmから疑似カラー合成)解説はこちら>>
大質量の星が多く生まれている領域で、赤外線で見た天の川の中でも、ひときわ明るい(図1、2参照)。画角は縦方向が10度である。これも波長140μmのデータは世界初となる。

参考資料

ミニマム成功基準(運用期間最低2ヶ月)

少なくとも以下のいずれかを達成し、天文学的に重要で新規のデータを得る。

  • 遠赤外サーベイ装置により、過去の遠赤外線サーベイ観測より高解像度、高感度で、1000平方度以上のサーベイ観測を達成する。
  • 近・中間赤外線カメラにより、数百回の広域撮像/分光観測を達成する。

フル成功基準(運用期間最低1年)

1年以上の液体ヘリウム冷却による観測期間を実現し、以下の観測を達成して、天文学の重要課題の研究に大きな寄与を果たす。

  • 遠赤外サーベイ装置により、過去の遠赤外線サーベイ観測より高解像度、高感度の全天サーベイを達成し、赤外線天体カタログを作成する。
  • 遠赤外サーベイ装置及び近・中間赤外線カメラにより、多波長での広域撮像観測を達成する。(近・中間赤外線カメラによる観測では、分光データの取得も含む。)

エクストラ成功基準

フル成功基準に加えて以下のいずれかを達成し、天文学的成果を増大させる。

  • 液体ヘリウム消費後も、機械式冷凍機による冷却のみにより、近・中間赤外線カメラを用いた近赤外線撮像/分光観測を継続する。
  • 遠赤外サーベイ装置によるサーベイと並行して、近・中間赤外線カメラによる中間赤外線でのサーベイ観測を達成する。
  • 遠赤外サーベイ装置の分光機能により、遠赤外線の分光観測を達成する。

注)過去の遠赤外線サーベイ観測とは、米・英・蘭の共同開発であるIRAS衛星(1983年打上げ)による観測を指す。IRASは波長100μmまでの観測により25万個の赤外線源を検出した。なお、ASTRO-FではIRASよりも数倍高い感度、解像度で波長200μmまでの観測を行う。

解説

はじめに

我々の銀河系は渦を巻く円盤のような形をしている。銀河系の中には、可視 光線で光っている星の他にも、マイナス200℃以下にもなる冷たいガスや塵が たくさん含まれている。ガスや塵の分布にはむらがあって、濃くなったとこ ろには重力でますます集中し、やがてその中心に星が生まれる。

赤外線は、可視光では見えない冷たい物質からも放たれている。赤外線で空 を観測する事で、目には見えないガスや塵の雲が、銀河系の中でどのように 分布しているかが分かる。星が盛んに生まれている場所では、星の光が周囲 の塵を暖め、より強い赤外線を放つようになる。赤外線で宇宙を観測する事 で、活発に星が生まれているところを調べる事ができる。

図1

「あかり」は、全天を赤外線で観測している。この図は波長9ミクロンでみた宇宙の姿である。中心から帯状に左右に拡がる明るい部分は、銀河系の円盤部分をその中にいる地球から真横に見たものである。画面中心付近の明るくなっている部分が、我々の銀河系の中心の方向にあたる。この方向では、塵だけでなく、年老いた赤く・明るい星(赤色巨星)が密集していて、特に明るく見えている。帯の中、あるいはそれから連なる部分には、盛んに星が生まれている領域がある。それらは、生まれたての星で暖められた塵が強い赤外線を放ち、明るく輝いて見える。なお、この画像では、太陽系内の塵から の赤外線放射の成分を大まかに取り除いてある。 本文図1に戻る

図2

図1と同じ絵の上に著名な天体や、赤外線で明るく輝く、活発に星が生まれている領域を示してある。星図については株式会社アストロアーツのステラナビゲータを利用し、 名古屋市科学館によって制作されたものである。これらの絵は、我々の銀河系の中のどの場所で、どれくらい活発に星が生まれつつあるかを一目瞭然に示してくれる。この絵の元となった観測データを詳細に解析する事で、それぞれの星生成領域の物理的状況をより詳しく調べる事ができる。

画面右下に「大マゼラン雲」と示されている天体がある。大マゼラン雲は、我々の銀河系のすぐ隣にある小さい銀河で、銀河全体で活発な星生成活動が起きている。このことは、この銀河がやはり赤外線で明るく輝いている事ことからも分かる。この絵には見えていないが、宇宙の中には非常に活発に星を作りつつある銀河がたくさんある。「あかり」はそのような銀河も拾い出して、宇宙の歴史を探る研究を行っている。本文図2に戻る

図3

オリオン座を含む 30°×40°の領域の140ミクロンでの赤外線画像。これほ ど広い領域を一望するイメージを作成できるのは、全天サーベイ観測を行っ た「あかり」ならではのことである。100 ミクロンを越える波長で、このよ うな広い領域の詳細な観測を行う事は、今後もまずあり得ないであろう。

画像の右半分がオリオン座、左側はいっかくじゅう座。銀河面は、画面左側 を上下に走っている。画面全体が赤く光っているのは、銀河系内の星間空間 に漂う冷たい塵が放つ赤外線を観測しているからである。

オリオン座の下側にひときわ明るく輝く天体はオリオン大星雲。ここでは、 大量の星が生まれ続けており、それによって暖められた塵が強い赤外線を放 っている。また、三つ星の左側の明るい天体は、馬頭星雲を含む領域で、可 視光では暗黒星雲として見える冷たい塵の雲も、赤外線では輝いて見えるこ とが分かる。左側中心付近に見える拡がった明るい星雲は「バラ星雲」で、 ここでも新しい星が生まれつつある。それ以外にも、たくさんの星生領域が 輝いて見える。オリオンの頭に当たるところを中心に大きく拡がった円上に 見えるのは、かつてその中心部でたくさんの重たい星が作られ、それが次々 に超新星爆発を起こして周囲のガスや塵を吹き飛ばして出来た「殻」である。

オリオン大星雲は太陽から約1500光年の位置にあり、またバラ星雲までは 約3600光年である。(光学写真提供:国立天文台 福島英雄)本文図3に戻る

図4

「はくちょう座-X領域」と呼ばれる領域の「あかり」による赤外線イメージである。(7.6°×10.0°) の範囲を表示している。この領域は、銀河系の渦状腕の内、太陽系が属する"オリオン腕"を腕の伸びる方向に透かしてみており、太陽系から 3000〜10000光年程度の範囲にある天体が、見掛け上狭い範囲に集まって見えている。画像の左上から右下にかけて、銀河面が横切っており、Cygnas-X領域はその上に重なって見えている。

画像の中に見える数多くの明るく輝いている天体は、質量の大きい星が生まれている場所である。生まれたての星からの光が、周囲のガスを電離し、塵を暖めて赤外線で明るく輝かせている。このように質量の大きい星が誕生する場が密集してみえる領域は、全天でも多くはない。この画像をよく見ると、大きく空洞になったような暗い部分が見える。これは、成長した高温の星の集団が、強い光により周囲のガスと塵を吹き払ってしまったものです。以前紹介したIC 1396 のイメージでもそのような部分が見られた。本文図4に戻る

2007年7月11日

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