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トピックス

小型科学衛星「れいめい」の現状と今後

小型科学衛星「れいめい」の概要

  • 衛星搭載機器の高度化と軽量化の研究開発プロジェクトの軌道上実証。
  • オーロラ発光層と、対応するプラズマ環境を高時間・高空間分解能で観測し、オーロラ発光機構を微細なスケールで調べる。

サイズ 72cm×62cm×62cm
質量 72kg
電力 160W(MAX)
姿勢制御 三軸制御(磁気トルカ使用)
制御精度:0.05度以下
軌道 準太陽同期(高度約600-670km)
※常に夜と昼の決まった時間帯を周回する極軌道
ロケット ドニエプルロケット(2005年8月24日打上げ)
(光衛星間通信実験衛星「きらり」のピギーバック衛星として打上げ)
射場 ロシア宇宙庁バイコヌール宇宙基地(カザフスタン共和国)

実証した工学技術<1>
−70kg級の小型衛星としては卓越した三軸姿勢制御能力−

  • 0.05度(3分角)の姿勢制御。軌道上動作確認された70kg以下の定常的三軸衛星は、世界でも数例しかない。(※2003年6月打上げのMOST衛星(カナダ)など)
  • バイアスモーメンタム方式(ホイール1台+磁気トルカー3台)
  • 残留磁気モーメントの軌道上推定とフィードフォワォード制御
  • 温度制御した民生ファイバーオプティカルジャイロ(FOG)
  • 磁気トルカーベースの姿勢制御としては画期

横軸が時間、縦軸はX軸、Y軸、Z軸。誤差0.05度以下の姿勢制御精度を示す。

実証した工学技術<2>
−車載用GPS受信機を宇宙用にソフトウェア改修した世界最小、最低価格の宇宙用GPS受信機−

  • 日本無線(株)製カーナビGPS受信機
  • 受信機10g、RF合成器こみ232g
  • 初期捕捉周波数引幅を拡大
    ドップラー周波数シフトに対応
  • 初期測位開始時間<20分
  • 精度15m以下、短期ランダム雑音1m
  • 20KRAD放射性耐性
  • SERVIS2号機、JEM MAXIに搭載
  • ベンチャー企業より国内、海外販売開始

FM-GPS Receiver + RF Hybrid

軌道上で常時GPS衛星6個以上が捕捉でき、
測位の短期ランダム雑音は1m程度である。

初期測位開始時間
軌道上で20分以下でコールドスタート測位ができている。

その他の実証した工学技術

  • 民生プロセッサを用いた3重多数決宇宙用計算機による統合化衛星制御
    軌道上動作確認。放射線異常、機能異常なし。本宇宙用計算機はSELENEに十数台搭載される。
  • 薄膜反射器による太陽集光パドル
    軌道上動作確認。160Wmax発生。増倍率1.2〜1.3。現在まで劣化なし。Boeing HS 702の反射率劣化への対策有効性をモニター継続。ALCATELとの共同研究。
  • 民生ラミネート実装リチウムイオン2次電池
    軌道上動作確認。10,000サイクル経過正常。ラミネート実装品のポッティング技術の確立。
  • フレキシブルな可変放射率素子
    軌道上動作確認。日陰時の太陽パドルの温度降下が緩和。初搭載。
  • 耐放射線性民生SOIメモリー
    軌道上動作確認。放射線異常なし。民生高温用途品。
    ※SOIメモリー:母材から絶縁されたシリコン薄膜上に集積回路を作ったメモリー
  • クリープのないβ−チタンネジ
    打上げ環境に耐えた。JAXAと民間の開発品を初搭載。
    ※クリープ(creep):物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象
  • 小型3m追跡局
    Sバンド。ダウリング131Kbps。アップリング1Kbps。Windows PC と小型送受信機で構成されたフレキシブルな地上局。

科学的成果<1>
−オーロラ発光層・粒子微細構造同時観測−

撮像観測点と粒子観測点が同一

  • 磁力線フッとプリントをカメラ視野内に捉えることが容易
  • 低高度では、オーロラ発光高度との間で磁力線の曲がりが少ない
  • 天候の影響を受けない

⇒地上光学観測+衛星プラズマ直接観測に対して優位
世界で初めて微細構造観測と同時観測の両立を効率的に実現した。
※地上観測と衛星観測による同時観測も原理的に可能であるが、実際には困難であった

オーロラの画像:©NASA

ほぼ唯一の同時観測例
(NASAのFAST衛星と航空機)
[Stenbaek-Nielsen et al., 1998]

科学的成果<2>
−高空間分解能、そして高時間分解能−−

微細構造観測をするには⇒高空間分解能、高時間分解能が必要
 高度650kmから撮像

  • オーロラ発光層に近い場所から観測(空間分解能を上げる)
  • 粒子加速構造より下部で観測(粒子構造とオーロラ発光層との対応)
    三軸姿勢制御
  • 全ピッチ角を同時にカバー(衛星スピンを使わない)
  • 発光層を継続的に撮像(感度増→空間分解能の向上)

⇒これまで高度650kmから三軸姿勢制御で撮像した例はなく、分解能:粒子20ms/0.15km、カメラ120ms/1.2kmを実現
※例えばDMSP衛星(米国NASA)は高度840kmから撮像。また、地球を1周して1枚の画像が得られるものなので、高時間分解能が必要な微細構造の科学に向きではない。

POLAR衛星(米国NASA)UVI高度5000km

「れいめい」オーロラカメラ(MAC)が捕らえた高度650kmからのオーロラ画像
[画像クリックでMPEGムービー再生]

科学的成果<3>

オーロラ発光層の微細構造とオーロラ電子の降りこみの観測

2007年1月27日8時20分(UT)付近[画像クリックでMPEGムービー再生]

オーロラ画像と電子フラックスの対応

これまでの衛星の粒子計測データでは、出現していたオーロラ発光層の構造を知ることができなかった。

  • 「れいめい」は、高分解能でオーロラ画像を取得

⇒オーロラ微細構造の中で衛星が通過した領域を詳細に知ることができた。

「れいめい」の今後

  • これまでのところ、バス機器、観測機器とも不具合はなく、科学観測を行う上での寿命はオーロラカメラのCCDの放射線劣化で決まると考えられている。この劣化を考慮してもあと2年程度は観測可能であろうと考えている。2006年度のJAXA宇宙理学委員会にて「れいめい」の評価が行われ、 高い評価を受け2007年度中は観測を継続することが決まった。
  • 2007年5月より情報・システム研究機構国立極地研究所との共同観測により、南極昭和基地多目的衛星データ受信システムを用いて「れいめい」データ受信を開始。これにより効果的な極域オーロラ物理研究の推進が期待できる。

今後

太陽活動度が上昇する

地磁気活動度が上昇し、オーロラ現象も活発化する⇒観測確率が増大する

海外研究者との共同観測開始

国際学会での「れいめい」観測結果発表による効果⇒国際的評価

地上観測網、衛星観測網の充実

THEMISオーロラ多点・常時観測網(カナダ・アラスカ域に20地点以上展開)が整備されてゆく⇒磁気圏大規模構造とのつながりを解明
※THEMIS衛星群:米国NASAの5基構成からなる磁気圏観測衛星。2007.2.17打上げ

次期小型科学衛星への展開

「れいめい」は、「ユーザーが満足する小型衛星」の時代の幕開けである。

2007年5月30日

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