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赤外線天文衛星「あかり」による観測結果、日本天文学会で発表
−「あかり」が見た星生成領域、超新星残骸、終末期の星、活動銀河核、遠方銀河−

東京大学大学院理学系研究科・理学部
名古屋大学
宇宙航空研究開発機構

昨年2月に打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星「あかり」は、現在も順調に観測を続けています。今回、「あかり」の観測から得られた初めての科学的成果が、日本天文学会春季年会で発表されることになりましたので、その中から5つの研究内容について紹介します。今回は、「あかり」に搭載された観測装置の一つ、近・中間赤外線カメラ(IRC)によって得られた成果を中心に発表します。

1.「あかり」の広域観測が明らかにした星形成の系譜

―こぎつね座IC4954/4955星雲領域の3世代にわたる星形成―
「あかり」は、3世代にわたる星形成の証拠を赤外線で初めて捉え、我々の銀河系でどのようにして星が生まれているかを知る手がかりを得ました。(詳細 >>

2.初めて赤外線でとらえた小マゼラン星雲の超新星残骸

―小マゼラン星雲中の超新星残骸の赤外線での検出―
3マイクロメートルから11マイクロメートルの赤外線で、初めて小マゼラン星雲の中の超新星残骸を検出し、超新星残骸と周囲の星間物質との相互作用を明らかにしました。
(この研究成果は4月の韓国天文学会で発表されます)(詳細 >>

3.「あかり」がとらえた円熟期の星の姿

―球状星団NGC104の中の若い赤色巨星からの質量放出現象の発見―
「あかり」による波長3マイクロメートルから24マイクロメートルでの観測により、比較的若い赤色巨星から、これまで検出されていなかった質量放出が起きている証拠を見つけました。この結果は、円熟期から終末期に向かう星の進化に新しい知見を与えます。(詳細 >>

4.赤外線でせまる巨大ブラックホールを持つ活動銀河核のまわりの分子ガス

―超高光度赤外線銀河UGC05101の活動銀河核のまわりの分子ガスの検出―
「あかり」は、活動銀河核と呼ばれる巨大ブラックホールを、さまざまな温度の分子ガスが取り囲んでいる証拠を見つけ、活動銀河核の構造を解き明かす重要なデータを得ました。(詳細 >>

5.「あかり」宇宙で活発に星が作られた時代を確認

―波長15マイクロメートルの深宇宙探査―
「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)により、広い空の領域にわたり、15マイクロメートルで現在最も暗い銀河までの観測を行い、多くの銀河を検出しました。この結果から、宇宙では、約60億年以上前から数十億年にわたり現在より星が盛んに生まれていた時代があったことを示すものと考えられます。(詳細 >>

「あかり」は宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトで主に名古屋大学、東京大学、自然科学研究機構・国立天文台、欧州宇宙機関(ESA)、英国Imperial College London、University of Sussex、The Open University、オランダUniversity of Groningen/SRON、韓国Seoul National Universityの協力で進められており、遠赤外線検出器開発では情報通信研究機構の協力を得ています。

1.「あかり」の広域観測が明らかにした星形成の系譜
―こぎつね座IC4954/4955星雲領域の3世代にわたる星形成

この研究は東京大学大学院理学系研究科学術支援研究員の石原大助氏が中心になって行っている研究です。
「あかり」は、3世代にわたって星が次々に生まれてきている領域の様子をはじめて明らかにしました。今回観測したのは、こぎつね座にあるIC4954/4955と呼ばれる反射星雲で、我々の太陽系から約6500光年の距離にあります。図1.1左は、「あかり」が波長9(青), 11(緑), 18(赤)マイクロメートルで観測したデータから合成したカラー画像です。白く見える円弧状の部分は、その中心部にある若い明るい星からの放射で、星間物質が掃き寄せられている部分です。このような密度の高い部分で、新しい星が生まれると考えられます。この部分は、遠赤外線のカラー合成画像(図1.1右)では青白く見えますが、これは星の光で星間物質が暖められていることを示しています。円弧の大きさは、約1光年です。

この反射星雲を含む約20倍広い領域に対して、9マイクロメートルと18マイクロメートルでの観測から合成カラー図を作ったのが図1.2です。この図で一番明るく見えているのが、IC4954/4955領域ですが、画像の中央部には150光年程度に拡がった空洞が見られます。我々は、数百万年から1千万年前に、空洞の中央部分で第1世代の星が形成され、その影響で現在のIC4954/4955の第2世代の星ができたと推定しています。そして、さらに第3世代の星が生まれつつあるのだと考えられます。

今回の観測は、「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)及び遠赤外線サーベイヤ(FIS)により、赤外線の7つの波長(9, 11, 18, 65, 90, 140, 160マイクロメートル)で行われました。生まれたばかりの星は大量の星間物質に取り囲まれて、星からの光が吸収されてしまうため、直接可視光で観測することは困難です。「あかり」による様々な波長の赤外線による観測で、はじめてこの領域の性質を詳しく調べることが出来ました。

図1.1左

図1.1右

図1.2

2.初めて赤外線でとらえた小マゼラン星雲の超新星残骸
―小マゼラン星雲中の超新星残骸の赤外線での検出―

―この研究はソウル大学のKoo Bon-Chul教授のグループが中心となり行っている共同研究です。
小マゼラン星雲にある超新星残骸の赤外線観測に「あかり」がはじめて成功しました。4種類の波長の赤外線による観測で、超新星爆発を起こして拡がっていくガスが、周囲の星間物質と激しい衝突を起こしていることがわかりました。このことから超新星爆発を起こした星は、元々質量の大きな星であったことが推測されています。

小マゼラン星雲は南半球から見える、われわれの銀河系からおよそ20万光年の距離にあるお隣の銀河です。「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)によって、超新星残骸B0104-72.3を、波長3, 4, 7, 11マイクロメートルで検出することに初めて成功しました。図2は、このデータから作成したカラー合成画像ですが、画像中央付近に斜めの楕円形状に光っているのが、超新星残骸です。差し渡しの大きさは約60~100光年です。

超新星残骸は、太陽よりもずっと重い星が一生の最後に超新星爆発を起こし、吹き飛ばされた物質が星間空間に拡がって見えているものです。超新星は、次世代の星を作るための材料を星間空間にまき散らすなど、銀河の進化のために重要な役割を果たしています。「あかり」による超新星残骸の観測によって、超新星爆発が星間空間に与える影響をきちんと理解する足がかりができると期待されています。

図2

3.「あかり」がとらえた円熟期の星の姿
―球状星団NGC104の中の若い赤色巨星からの質量放出現象の発見―

この研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究員の板 由房氏及び東京大学大学院理学系研究科大学院生の松永典之氏が中心になって行っている研究です。
「あかり」は、星の一生の最終段階にさしかかった星から、大量のガスやちりが放出されているところをとらえました。これまでの観測では、このような放出は、さらに進化の進んだ、進化の最末期の星からしか見つかっておらず、それよりも若干「若い」星から観測されたのは始めてのことです。この結果は星の終末進化の研究に、新たな一石を投じるものです。

太陽と同程度の質量の星は、進化が進むと赤色巨星となり、表面にある物質を星間空間に放出するようになります。この「質量放出」現象が活発に起きるのは、赤色巨星の中でも最も進化の進んだ段階にある星だと考えられていました。それより前の段階で質量放出が起きることは、理論的に予測はされていたものの、観測的な証拠はありませんでした。

「あかり」の観測は、南天の巨嘴鳥座にある球状星団、NGC104(別名 47 Tuc)に対して行われました。この球状星団は、我々の太陽系から約1.5万光年の距離にあり、110億年前に生まれた、100万個程度の星からなります。近・中間赤外線カメラ(IRC)により得られた波長3, 11, 24マイクロメートルの観測データから合成した、カラー画像を図3に示します。中心付近に赤く、明るく見えている星は、進化の最終段階にある赤色巨星で、自らの放出したちりの雲が放つ赤外線により、赤く見えています。画面隅に丸で囲んだ星は、それよりも暗く、しかし同じくらい赤い星です。これは、この星がまだ赤色巨星としては初期の段階にあるにもかかわらず、大きな質量放出をしていることを意味しています。

星が進化のどの段階でどれくらい質量放出を行うかは、星の一生を研究する上でも、銀河の進化を考える上でも非常に重要なことです。今回の観測によって、この議論に新たな進展があるものと期待されます。

図3

4.赤外線でせまる巨大ブラックホールを持つ活動銀河核のまわりの分子ガス
―超高光度赤外線銀河UGC05101の活動銀河核のまわりの分子ガスの検出―

この研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授の中川貴雄氏、同機構研究員の白旗麻衣氏が中心になって行っている研究です。
赤外線で極めて明るく輝く、超高光度赤外線銀河と呼ばれる天体があります。これらの銀河の中心部には、ブラックホールがあると考えられています。「あかり」は、この種の銀河の中心部にある分子ガスの性質を詳しく調べ、これまで知ることの出来なかった中心部の状況を明らかにすることに成功しました。

観測されたのは、大熊座にあるUGC05101と呼ばれる銀河で、我々から約5億5千万光年の距離にあります。この銀河は、太陽の一兆倍ものエネルギーを赤外線で放っています。この巨大なエネルギーの源は、中心にある巨大ブラックホールへ周囲の物質が落ち込むことによると考えられています。しかし、中心部は厚い星間物質に取り囲まれていて、中の状況を探るのは困難でした。「あかり」は、その優れた赤外線感度を活かして、UGC05101銀河の中心核の謎に挑みました。図4に「あかり」に搭載された近・中間赤外線カメラ(IRC)で観測された、この銀河の2マイクロメートルから13マイクロメートルまでのスペクトルです。スペクトルには、ちりやガスの成分や、温度などの情報が刻まれています。特に我々は今回、4.5〜5マイクロメートルにかけての、一酸化炭素(CO)ガスの成分に着目して解析した結果、ブラックホールの近くから放たれた光によって暖められたと考えられる、数百℃のガスの存在を確認しました。

図4

5.「あかり」宇宙で活発に星が作られた時代を確認
―波長15マイクロメートルの深宇宙探査―

この研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)助手の和田武彦氏、同機構研究員の大薮進喜氏らが中心となって行っている研究です。
「あかり」による観測で、我々の宇宙では60億年以上前から数10億年間にわたって、非常に盛んに星が生まれていたことが明らかになりました。この結果は、これまでの研究から推測されていたことを、最新の観測結果で確認したものです。

星が盛んに生まれている活動的な銀河は、赤外線で明るく光ることが知られています。遠くの銀河からの光は地球に届くまでに時間がかかるため、現在見ている銀河の姿は、実際には昔の時代の姿です。1995年に打ち上げられたヨーロッパの宇宙赤外線天文台ISOは、15マイクロメートルで観測すると、暗い銀河の数が急激に増えるらしいことを発見しました。この結果から、約60億年前に宇宙全体で活発な星生成活動があり、そのときに発せられた7マイクロメートル程度の波長の赤外線が、宇宙が膨張するために赤方変移して、現在15マイクロメートルで観測されているのだろう、と言う推測がなされました。ISOの結果は非常に狭い空の、わずか24個の銀河の観測から推論したものでした。今回、「あかり」の近・中間赤外線カメラ(IRC)によって、より広い範囲の高感度観測を行い、約280個の銀河を検出しました(図5)。このデータを解析したところ、60億年よりさらに前から、星生成活動は活発であったことが分かりました。

「あかり」は、この他に2マイクロメートルから24マイクロメートルにかけて同じような暗い銀河の探査を行っています。これらの結果を合わせることにより、銀河が現在までにどのように進化してきたかを明らかにできると考えています。

図5

2007年3月26日

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