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はやぶさサイエンスウィーク報告

はやぶさチームは去る7月8日に会津大学で一般講演会、7月12-14日に東京大学で第二回はやぶさ国際科学シンポジウムを開催し、それぞれ盛況を博しました。また15日には、藤原顕前プロジェクトサイエンティストの功績を称え、国際天文学連合が小惑星1991AFを「アキラ・フジワラ」と命名しました。

 昨年12月に一旦途絶えた通信も回復し、来春の地球帰還開始に備えて、はやぶさチームは現在も毎日運用に励んでいます。小惑星イトカワの初期観測結果は、今年3月にヒューストンで開催された月惑星科学会議(LPSC)にて初公開された後、6月には学術論文誌「サイエンス」に掲載されました。続く7月にはやぶさ科学チームは、その後の研究成果を議論する「第二回はやぶさ国際科学シンポジウム」
http://kumano.u-aizu.ac.jp/hayabusa_symp2006/)と、成果を一般の方に分かりやすく伝える「一般講演会:はやぶさの見た小惑星イトカワ」
http://www.u-aizu.ac.jp/official/publec/hayabusa2006_j.html)を開催しました。

 「はやぶさ国際科学シンポジウム」の第一回は、イトカワ到着を一年前に控えた2004年秋に「総研大国際シンポジウム」に採択され、日本学術振興会と宇宙科学振興会のご支援も頂いて、相模原キャンパスで開催されました。当時は地上観測、隕石・宇宙塵分析、軌道力学進化などの知見を総動員し、小惑星イトカワの姿を徹底的に予測しました。一年後にはやぶさ探査機が見たその正体は、予想通りの一面と誰も想像できなかった新発見が入り混じったものでした。

 第二回の今回は、なぜイトカワのような微小天体があれほど変化に富んだ地形や構造を持つに至ったのか、つまり微惑星成長過程の衝突破壊・合体の素過程の解明について、白熱した議論が交わされました。7月12-14日に東京大学浅野キャンパスにある武田先端知ビル・武田ホールに、海外からの参加者24名を含む総勢73名の研究者が集いました。今回は宇宙科学研究本部と会津大学が共催して、宇宙科学振興会と天文学振興財団のご支援を頂きました。前はやぶさプロジェクトサイエンティスト・藤原顕教授の定年退職後の開催でもあり、実行委員会は後任の吉川真助教授を委員長として、ISAS始原天体研究グループの助手・技術職員・PD・学生が総出で現場の裏方を行いました。会津大、東大、東邦学園大、国立天文台の方々からも温かいご支援を頂きました。

 今回の学術会議の特色は、小惑星滞在時の詳細な運用実績を論じた後、各科学観測機器のデータに基づいて、軌道力学、衝突実験、地質学、地上観測などで独自に得られた研究結果が解釈し直されたり、「微小重力地質学」のような新しい研究課題が提案されたことです。母天体の衝突破壊後に再集積した微小天体が「瓦礫の寄せ集め(ラブルパイル)構造」を持ちえるというアイディアは、20年ほど前に藤原前教授が自らの衝突実験結果から初めて提唱したものです。シンポジウムの議論を通じて、改めてその先見性が高く評価されると同時に、その藤原前教授がサイエンスの先頭に立ったはやぶさが、史上初のラブルパイル小惑星を発見したという縁に感慨を深くした参加者も多かったようです。

 採取試料の初期分析の方向性についても、その場観測の結果を踏まえた議論が交わされました。スターダスト(彗星塵)とジェネシス(太陽風粒子)の回収試料の初期分析活動からの貴重な教訓も、激励を込めてはやぶさチームに伝授されました。さらに、はやぶさに続く日本の始原天体探査への大きな期待が、各国の研究者から表明されました。そうした声は、小天体探査ワーキンググループや月惑星探査推進チームで現在議論されている将来構想に生かしていきたいと思います。学生諸君やPDの方々にとっては口頭発表だけでなく、ポスターセッションやレセプションなども通じて、同年代の世界中のライバルとの意義深い交流がたくさんあったようです。

 一般講演会は、シンポジウムに先立つ7月8日、福島県会津若松市の会津大学に100名以上の市民をお招きして開催しました。小惑星イトカワの三次元形状モデルの構築や画像による地質学研究に、同大学マルチメディアシステム学講座研究室を挙げて参加された浅田智朗教授、出村裕英講師、平田成講師に加えて、ISASからは、4月に退職したばかりの藤原前教授、ご先祖と会津の縁も深い上杉邦憲前教授と、川口淳一郎教授、矢野が講演しました。参加者全員に赤青メガネと地名入り地質図を配布して、自転するイトカワの立体画像を見せながらの「イトカワ名所巡り」など、学術発表とは一味違った楽しい講演会でした。

 またはやぶさプロジェクトで担当した小惑星形状認識の研究成果がScienceに掲載されたこと、探査機の「目」の役割を果たし、各種報道等により国内外に大学を広く周知したことを事由に、出村講師が角山茂章・会津大学学長より、同大学初の職員表彰を受けました。副賞として、マルチメディアシステム学講座に奨励研究費が贈られました。さらに同日夜には宮城県松島で開催された第45回日本SF大会(http://www.sf-fan.gr.jp/)にて、「はやぶさサンプルリターンミッションにおけるイトカワ着陸」が「2006年度星雲賞・自由部門」を受賞しました。

 シンポジウム最終日の翌15日の日中には、本郷・学士会館分館にて藤原前教授の退職を記念した「宇宙塵・衝突・始原天体研究の今後」セミナーも開催し、全国から50名ほどの参加がありました。その中で、はやぶさ以前に藤原前教授が宇宙塵の非破壊捕集機構を開発した日米共同の彗星塵サンプルリターン「SOCCER」計画がその後、米国単独で「スターダスト」計画として実現し、今年1月に彗星塵が無事地球に届けられたことなども披露されました。その晩は神保町・学士会館本館に会場を移し、「藤原顕先生退職記念パーティー」に国内外から90名以上のご参加を賜りました。その席で、国際天文学連合(IAU)小惑星命名委員会より「はやぶさによるイトカワ探査を成功させた、小惑星の衝突破壊過程や宇宙塵の捕集実験のパイオニア」としての藤原前教授の功績を称え、メインベルト小惑星「1991AF」を「(5782)Akirafujiwara」(1991「AF」と藤原前教授のイニシャルがかけてある!)と命名する旨の報告がなされました。これは藤原前教授のみならず、はやぶさチームや旧藤原研究室のメンバーにとっても、大変嬉しい出来事でした。さらに翌16日には、はやぶさチームの一部は宇宙空間研究委員会(COSPAR)国際会議での成果発表のために、中国・北京へと旅立ちました。こうして7月半ばの「はやぶさサイエンスウィーク」は、一足早い台風のように駆け抜けていきました。

 なお、はやぶさシンポジウムシリーズは、企画段階から三回連続で行い、地上観測(2004年)、探査機によるその場計測(2006年)、採取試料分析の各段階によって、小惑星に対する理解が深まる過程を追いかけていくという目的を掲げてきました。したがって、第三回は地球帰還カプセルを回収して、採取試料の初期分析が行われる2010-11年頃に開催したいと希望しています。

報告:矢野創(JAXA宇宙科学研究本部)

図1:はやぶさシンポジウム参加者全員が署名した「サイエンス」のはやぶさ特集号

図2:東京大学にて開催された第二回はやぶさシンポジウム

図3:会津大学にて開催されたはやぶさ一般講演会

2006年8月15日

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