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南極でBESS-Polar気球実験進行中

現在、南極のアメリカ・マクマード基地においてBESS気球実験の準備が進められています。

[BESS-Polar実験]

 BESS(Balloon-bone Experiment with a Superconducting Spectrometer; 超伝導スペクトロメータを用いた気球実験)は宇宙粒子線の観測を通じて『宇宙における素粒子現象』を調べることを目的とした日米国際共同実験です。
日本からは宇宙科学研究本部のほか、高エネルギー加速器研究機構・東京大学・神戸大学が、また、アメリカからはNASA/ゴダード宇宙飛行センターとメリーランド大学が参加しています。BESSは1987年に提案され、1993年以降ほぼ毎年、カナダなどで通算9回の気球実験を行ってきました。測定器を大幅にリニューアルして臨んでいる今回の南極マクマード実験を、特にBESS-Polarと呼んでいます。

[実験の目的]

1.反陽子
 宇宙線反陽子の大半は銀河系宇宙線(主に陽子)と星間物質(主に水素)との衝突により生成されていることがこれまでのBESS実験により確認されてきました。しかし、この衝突起源では低いエネルギーの反陽子が生成されにくく、もし低エネルギーの反陽子が予想よりも多く観測されれば、他の起源による反陽子生成を考える必要があります。
そのような起源としては、ニュートラリーノ・ダークマターの対消滅や原始ブラックホールの蒸発などの未知の現象が可能性として指摘されています。
2.反物質
 私たちの周りの宇宙は物質優勢で物質・反物質の対称性が破れていますが、どこか遠方の宇宙に「反物質銀河」が存在している可能性もあります。宇宙線反物質(反ヘリウムなど)は高エネルギー宇宙線と星間物質との衝突で生成される可能性が極めて低く、もし一例でも観測されればそのような反物質銀河起源である可能性が高いです。
3.宇宙線基礎データの収集
 宇宙線分野の重要な基礎データとなる陽子やヘリウムなどの各種宇宙線成分の精密測定を目指しています。

[測定器]

 宇宙粒子線の識別には電荷・質量・エネルギーの情報が必要で、それらは運動量・速さ・エネルギー損失を測定することで得られます。BESS-Polar 測定器は、均一な磁場を作る超伝導磁石と様々な粒子検出器から成り、大面積立体角と高分解能を有しています。また、より低いエネルギーの粒子を測定するため、これまでのBESS測定器よりも更なる薄肉化が図られています。その他、データ収集・通信・環境モニタの各種システムや、南極の白夜を利用して電力を得るための太陽電池システムなどが搭載されています。

[南極気球]

 地球大気の影響を最小限に抑えて宇宙線を直接観測するため、気球を用いて成層圏上部(高度約37km)で実験を行います。気球はNASA/NSBFが担当しています。ペイロード総重量が2トン前後にもなるため、気球は、上空で膨らんだ時の体積が100万立方メートルを超える大きなものを使います。
 地球が大きな磁石であるため、低緯度地域では低エネルギーの宇宙線は磁力線に巻きついて観測できません。一方、磁極に近い地域では地磁気の影響が少なく、カナダや南極は低エネルギー宇宙線の観測に適しています。12月から1月にかけて南極上空の風は極を中心とする周回軌道を描いており、この風に気球を載せることで1周約10日間の長時間飛翔が可能となります。カナダでは地理的な制約により1回の飛翔時間が約1〜2日間に限られるため、南極気球により観測時間を大幅に延ばす事ができます。南極気球は日本の昭和基地でも宇宙科学研究本部が極地研と共同で実施していますが、今回はより高緯度のマクマード基地で実施します。
 また、衛星やロケットに比べて安価で、実験後に測定器を回収できる、という点も気球実験の大きなメリットです。

[スケジュール]

 10月27日にニュージーランド経由で現地入りし、実験の最終準備を進めてきました。
12月3日には総合リハーサルが行なわれ、あとは打上げに適した天候を待つばかりです。
この南極遠征には日米から合わせて常時約10人が参加しています。

2004年12月13日

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