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ISASニュース

スポラディックE層の空間構造を探る

No.407(2015年2月)掲載

 スポラディックE層(以下、Es層と略す)とは、高度100km付近の電離圏下部に突発的に出現するプラズマ密度の高い層のことです。この層の出現により、隣町の防災無線放送が混信したり、アナログ方式だったころのテレビでは画像が乱れたこともあったそうです。Es層の存在は数十年前から知られ、垂直構造は理解されていますが、水平分布は観測が難しく、現在でもよく理解されていません。

 Es層の3次元空間構造を理解するため、観測ロケットS-520-29号機実験が2014年8月に行われました。Es層内にはマグネシウムなどの金属イオンが多く存在し、太陽光の散乱光を発するため、その撮像によりEs層の水平分布が観測できます。また、地上からの送信電波をロケット上で受信すると伝搬経路上の電子密度分布の推定が可能で、送信局の位置に応じてさまざまな方向と距離の情報を得ることができます。さらに、ロケット搭載のプローブは軌道に沿った詳細な電子密度分布を提供してくれます。これらのデータを組み合わせれば、図に示すようなEs層に関する立体的な密度分布を推定することが可能です。図はある断面を示しますが、金属イオンの発光分布や受信電波はこの面以外の方向にも広がり、立体的な情報が得られます。

 条件が満たされず打上げを計3回延期しましたが、4回目に背景密度の約40倍に達する非常に強いEs層が発生し実験が行われました。電波送信局の方向に応じ異なる高度で強度の減衰が観測された結果は、Es層の構造を反映したものです。強いEs層内ではプラズマ密度が急勾配で変化し、プローブデータの解析方法の見直しを迫られるという、うれしい悲鳴も聞こえています。ロケット姿勢の複雑な運動のため、肝心のイオン散乱光観測に基づいたプラズマ密度の水平分布推定はまだ解析中ですが、興味深い結果が期待されます。

 電離圏プラズマ観測の歴史は長いですが、今回の実験のように新たな手法を取り入れて科学的発見を目指していきたいと考えています。

(阿部 琢美)

S-520-29号機実験で行ったスポラディックE層プラズマ密度分布の立体観測

S-520-29号機実験で行ったスポラディックE層プラズマ密度分布の立体観測