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ISASニュース

「きぼう」における氷の結晶成長実験Ice Crystal 2

No.390(2013年9月)掲載

8月4日未明、宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機が国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられました。「こうのとり」4号機には、日本実験棟「きぼう」で氷の結晶をつくるための実験機器が搭載されていました。実験名はIce Crystal 2といいます(代表研究者:北海道大学低温科学研究所古川義純所長)。実は、「きぼう」が打ち上げられた2008年にも、古川先生が提案した氷結晶をつくる実験(Ice Crystal)を実施しました。対流のない環境で繰り返し実験を行った結果、氷結晶の成長速度や、結晶先端の丸みなどが正確に分かり、多くの新しい発見がありました。Ice Crystal 2と銘打った今回の実験では、試料の水に「不凍タンパク質」を混ぜているのが特徴です。

極寒の海にいる魚が氷点下でも凍らない秘密、それが不凍タンパク質です。不凍タンパク質は、魚の体内でできた氷の核が、大きく成長しないよう阻害する働きを持つのです。こうしたことから、不凍タンパク質をアイスクリームに混ぜて舌触りを良くしたり、冷凍食品の品質保持に役立てたりといった応用利用がなされています。本実験で着目しているのは、不凍タンパク質を混ぜたときの氷結晶の成長速度です。

実は、ただの水の場合、ある温度に設定すれば氷の成長速度は基本的には一定なのですが、不凍タンパク質を混ぜたときだけ、同じ温度設定なのに成長が速くなったり遅くなったりを繰り返すことが分かったのです。つまり、成長速度が振動しているようなのです。この振動成長は不凍タンパク質の氷表面への取り込みが2段階で行われるためではないかと古川先生のチームでは考えていますが、成長速度は環境条件に依存するため、対流により大きく左右されます。対流のない宇宙で、干渉顕微鏡や位相差顕微鏡を使って振動成長のデータを取得し、理論構築を行うことが、本実験の目的です。

さて、「こうのとり」は無事にISSに到着し、その後、実験機器が取り出されました。8月19日に、宇宙飛行士による機器のセットアップが行われました。この原稿を書いている8月22日には最初の機能チェックを実施。打上げ前にさまざまな試験を行い、確認をしたおかげか、何の問題もなく、ほっとしました。来週からいよいよ実験開始です。宇宙でも振動成長は観察されるでしょうか?

(吉崎 泉)

結晶をつくる試料セルと、観察系がぎゅうぎゅうに詰まった実験機器の内部。