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ISASニュース

X線天文衛星ASTRO-Hの微小擾乱試験

No.387(2013年6月)掲載

X線天文衛星ASTRO-Hのシステム試験については、本誌2013年2月号に引き続き、2度目のご報告となります。2013年3月のほぼ1ヶ月をかけて、筑波宇宙センター総合環境試験棟の特性試験室にて微小擾乱じょうらん試験を行いました。

ASTRO-Hには、センサ冷却用の冷凍機や姿勢制御用のジャイロ、リアクションホイールなど機械的な微小振動を引き起こす装置が搭載されます。これらの装置が発生させる微小な振動によって、望遠鏡が捉えた天体のX線像がぶれたり、観測センサの性能に影響を与えたりしないかを調べるため、擾乱源となる装置の実機や模擬擾乱源を実際に動作させ、衛星の各点(望遠鏡や観測用センサなど90点程度)に発生する加速度などを測定しました。

微小擾乱の影響を正確に評価するためには、フライトモデル相当の機械特性を持つ供試体が必要です。熱モデル試験と同様、主要な構造体はフライトモデルそのものを用い、一部の観測装置や搭載機器は実機と等価な質量と重心位置を持ったダミー機器やエンジニアリングモデル機器を搭載します。供試体の集結、衛星 各部の組み上げから初期アライメント計測を経て試験が開始できるようになるまで、2ヶ月以上を要しました。

ASTRO-Hは指向精度要求が厳しいため、微小擾乱試験では重力加速度の1000分の1程度の加速度を測定する必要がありました。ほんのわずかな振動も測定に影響を及ぼすため、試験中は衛星を天井からつり、空調を停止し、人払いをして必要最低限の人員のみが計測に参加するようにしました。特に慎重な測定が必要なケースでは夜間に測定を行い、同じ建屋で行われているほかの衛星の試験の影響を受けないよう、細心の注意を払って試験を進めました。

1ヶ月間の試験を通じて、質・量ともに評価に必要なデータを得ることができました。現在、試験結果の詳細解析を行っています。

微小擾乱試験に引き続き、5月からは機械環境試験を行っています。原稿執筆時点で衛星分離衝撃試験、音響試験を終え、正弦波振動試験の準備を行っているところです。

(夏苅 権)

微小擾乱試験の様子。衛星を4本のばねでつり、地面からの振動を遮断している。