宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

「ひので」が衝突回避のために緊急軌道制御を初めて実施

No.374(2012年5月)掲載

太陽観測衛星「ひので」は、軌道上で他衛星との衝突の危険性があったため、3月9日に緊急軌道制御を実施しました。

「ひので」の軌道は高度約680kmで、昼と夜の境界を飛行する太陽同期極軌道です。この高度には宇宙ごみが多く存在し、公開された軌道データを用いた解析によると、極域地方の通過時に軌道が交差しやすく、宇宙ごみと数km以内に接近するケースがよく発生します。そのため、宇宙ごみと異常に接近して衝突の危険性が高いという予測が出た場合における衛星運用の考え方を、2010年に明確化し対応方法を準備しました。この緊急運用は、宇宙ごみとの接近の解析など軌道に関する業務を担当するJAXA統合追跡ネットワーク技術部(筑波)と、衛星運用を行う「ひので」プロジェクト(相模原)が綿密に協力して行うものです。

今回のケースは、宇宙ごみではなく、他国の小型の通信衛星と非常に近くまで接近するものでした。早い段階からこのケースに注目していたNASAの協力も得て、接近解析の評価を繰り返し行いました。評価の結果、JAXAの衛星が今まで経験した回避事例の中で最も危険度が高いことが分かり、緊急軌道制御を行うことになりました。ちょうど太陽面では非常に複雑な活動領域(黒点群)が発達し、3月8日に今太陽活動サイクルで最大級のフレアが発生したところでした。科学観測の観点からは残念ですが、この活動領域の観測は諦めて中断させました。

衛星高度をわずかに変更させる軌道制御は予定通りに完了し、衝突の危険性は回避されました。定常運用の姿勢に戻す途中、手順の誤りによりセーフホールド移行をさせてしまったため、当初の計画より時間を要しましたが、3月17日から定常観測を再開しています。

「ひので」の軌道制御を行うためには、太陽光を集光する大きな望遠鏡を持つことに伴う制約があり、やや複雑な回避手順を取っています。今回初めて緊急軌道制御を行い、改善すべき課題もいくつか明らかになりました。今後も宇宙ごみとの異常接近は考えられます。いつ発生するか分からない軌道上での異常接近に対して、頭を悩ましそうです。

(清水敏文)

緊急軌道制御運用前に撮影した最大級フレアを発生させた黒点群