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ISASニュース

「あかつき」は眠らない

No.362(2011年5月)掲載

金星探査機「あかつき」は再び金星に会合する6年後を目指して太陽のまわりを公転していますが、この半年間、ただ息を潜めていたわけではありません。

今年3月、「あかつき」と金星の間の距離が一時的に縮まりました。「あかつき」は太陽と金星の間を通過しつつあり、地球からでは太陽が邪魔で見ることができない“満金星”を「あかつき」から見るチャンスでもありました。そこで、紫外線から赤外線にわたる5つの波長で、途切れ途切れではありますが3週間にわたって金星を観測しました。距離が縮まったとはいえ、金星までは千数百万kmで、金星の直径の1万倍以上です。「あかつき」のカメラで4画素程度にしかなりません。それでも特別仕様のカメラで、大気中の1万kmスケールの波動や雲の時間変化を捉えられる可能性があります。現在、画像データを少しずつ地上に送ってきているところで、データがそろって本格的な解析が始められるのを心待ちにしているところです。

4月17日、「あかつき」は太陽まで最も近づく場所(近日点)を通過しました。打上げ前の想定とは違い、金星の公転軌道より内側を飛行するため、機体の温度が上がり過ぎることを心配しました。今のところ探査機の状態に問題はないようです。

6月の1ヶ月間は、地球から見て太陽の向こう側を通過する「あかつき」から地球に向けて電波を送信し、太陽から吹き出す高温のガス「太陽風」を調べます。電波は、太陽のすぐそばを通るとき太陽風によって乱されます。この電波を地上で受信することで、太陽風の密度の揺らぎや流速などが分かるのです。このような観測は探査機がちょうど太陽の反対側を通るときしかできないので、宇宙科学の歴史の中でも貴重な機会です。今回、電波の経路から太陽表面までの距離は太陽の直径のわずか4分の1。太陽から放たれた直後の太陽風の性質を探る、あまり例のない試みとなります。ちなみに、金星周回軌道投入に成功していたら、これほど太陽に近いところを調べることはできませんでした。

長い巡航フェーズとなりましたが、一息つく間もなく新たな課題に挑戦する日々が続いています。

(今村 剛)

2011年3月9日に「あかつき」から赤外線で撮影した金星 (波長2.02μm:IR2カメラによる)