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ISASニュース

爆発的星生成銀河M82の銀河風の起源を解明

No.361(2011年4月)掲載

爆発的星生成銀河は、星々が非常に活発に生まれている銀河で、「ベビーブーム」の状態にあります。私たちが住む銀河系もかつて爆発的星生成を経験したかもしれず、その素性を探ることは銀河系の歴史を知る上でも重要です。

銀河系から1200万光年の距離にあるM82も、ベビーブーム銀河の一つです。M82では、銀河風と呼ばれるガスとダストの強い流れが、中心部から外側にかけて1万光年以上ものスケールで生じています。銀河風の速度は、何と秒速数百km。どこからどのように銀河風が吹き出しているのかを知るには、銀河中心部にある星生成領域を詳しく調べる必要があります。

我々は、可視光では見通せないM82の中心部の構造を探るために、すばる望遠鏡に搭載された中間赤外線撮像分光装置COMICSを用いて、波長10μmの中間赤外線で観測を行いました。その結果、現在までで最もシャープなM82の中間赤外線画像を取得し、その中心部の構造を暴くことに成功しました。図の赤が、すばる望遠鏡が見たM82中心部です。そこには、何百光年もの広い範囲に明るく光る領域が複数存在しています。この明るい領域がそれぞれ生まれたばかりの若い星々の集団、つまり若い星団に対応し、星々によって暖められたダストが中間赤外線で明るく輝いています。また、それら星団から伸びる流れが複数存在しています。この流れこそが銀河風の根元に違いありません。つまり、M82で吹いている銀河風は1つの星団からではなく、複数の星団から吹き出した風が合わさったものだったのです。

また、ほかの観測データと比較することで、もう一つ興味深いことが分かりました。図の緑はハッブル宇宙望遠鏡の近赤外線画像(星の分布に対応)を、青はチャンドラX線観測衛星のX線画像(高密度星に対応)を表しています。この画像から、星の放射が直接は見えない場所でも激しい星生成活動が生じ、中間赤外線で明るく輝いていることが分かりました。M82の中心部には、見えなくとも非常に多くの星々が潜んでいるのです。

M82のさらなる問題として、中心部に超巨大ブラックホールが存在するかどうか、があります。今回の観測からは超巨大ブラックホールは見つかりませんでした。しかし、まだ中心部に潜んでいる可能性はあり、その検証が今後の課題です。

(JAXAインターナショナルトップヤングフェロー ガンディー・ポシャック/青山学院大学理工学部准教授 馬場彩)

M82中心部の疑似カラー画像