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ISASコラム

前略、こちら地上系
第4回

衛星データの行方

科学衛星運用・データ利用ユニット
科学データ利用促進グループ
岡田 尚基
(ISASニュース 2015年8月 No.413掲載)

 今回は、衛星運用で得られたデータが利用者の手に渡るまでのお話です。第1回「『地上系』のあらまし」(ISASニュース2015年5月号)の図1「大まかな『地上系』の概略図」の左下部分に当たります。

 科学衛星・探査機(以下、衛星)のデータ(テレメトリデータ)には大きく分けて2種類あります。衛星自身の状態を表すハウスキーピング(HK)データと、衛星が観測したミッションデータです。前者のHKデータは、衛星運用に使われるほか、よりよい衛星をつくるための研究材料として衛星運用をする人たちや衛星開発をする人たちの手に渡っていきます。後者のミッションデータは、宇宙のさまざまな天体や現象を観測したデータなので、人類の資産として世界中の宇宙の科学者が研究のために使います。これらの衛星のデータを使ってもらうために、衛星共通のいくつかのシステムが動いています。

 まずは、テレメトリデータベース「SIRIUS」。これは、後段のデータ処理を容易にするためのデータ整理を行うシステムです。衛星からのテレメトリデータは世界各地の複数のアンテナで受信され、かつ1回の受信で得られるデータには衛星内のレコーダに記録されていた過去のデータも含まれます。それらは相模原キャンパスに集められるのですが、データを解析する人たちからは、「どのアンテナでいつ受信したデータか」ではなく、「衛星がこのときどういう状態だったのか」「このときに観測した天体のデータはどうなっているか」という視点でデータを探したいという要求があります。そこでSIRIUSでは、データの中身はそのままに、それが発生した時間を計算し、その順番にデータを並べ替え、同じデータが複数あれば一つだけを残すように整理し、データ処理をする人たちに配っています。

図1 SIRIUS、EDISON、DARTSを構成するサーバ群
図1 SIRIUS、EDISON、DARTSを構成するサーバ群


 SIRIUSまでは衛星のすべてのテレメトリデータを扱っていますが、そこから先はHKデータとミッションデータで主な行き先が変わります。HKデータは衛星運用工学データベースシステム「EDISON」へ、ミッションデータは衛星プロジェクトによるデータ処理を経て科学衛星データアーカイブシステム「DARTS」へ行くのです。

 SIRIUSに入っている状態のテレメトリデータは、そのまま人が解釈できる状態にはなっていません。EDISONでは、工学値変換という、センサの出力値から物理量を算出する処理を施すことで、衛星の各部分の温度やバッテリの電圧、姿勢などのHKデータを読みやすい状態にし、衛星運用や工学研究をする人たちへ提供しています。

 ミッションデータもHKデータと同様、適切な処理を行わなければ科学研究に使うことはできません。この処理の内容は観測対象・機器によってさまざまで、衛星プロジェクトの観測機器チームが主体となって実施します。処理結果は世界中の科学者が研究に使えるよう、DARTSからWebページを通じてインターネットへ公開されます。DARTSではJAXAの科学衛星のデータのほか、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」船内実験室での微小重力実験のデータや、NASAの探査機で取得されながらも長らく公開されていなかった月・火星の地震データなどを宇宙研の研究者が公開情報として整備し直したものも、保管・提供しています。

 衛星の運用は、数年から十数年で終わりを迎えます。運用が終われば衛星プロジェクトは解散し、組織としてデータを管理することはできなくなります。しかし、それらの衛星が取得したデータは、その後もずっと国内外で使われます。その衛星のことをよく知らない人が使うこともあります。より長い時間、より多くの人に貴重な科学データを活用してもらうためには、データだけではなく、そのデータを読み解くための付加情報を充実させる必要があります。科学者の研究を促進するために、その研究分野に即したデータ形式にしておくことや、研究に必要なデータを検索する方法を提供することも必要です。データを長期間保存し、それが有効に活用されるためにどうすべきか、また衛星が共通的に使用するシステムはどうあるべきなのか、地上系のデータを扱うシステムはそういったことを模索しながら整備されています。

 DARTSのWebページは研究者向けではありますが、どなたでも見ることができます。このデータはどういう経路をたどってきたのだろう、そんなことを考えながら衛星のデータを見てみるのはいかがでしょうか?

(おかだ・なおき)