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ISASコラム

最終回:なんでも屋のシステム担当 中谷幸司
SPRINT-Aプロジェクトチーム サブマネージャー

(ISASニュース 2014年1月 No.394掲載)

 惑星分光観測衛星「ひさき」に関する連載も、今月号が最終回です。今回は、プロジェクトのシステム担当についての話です。「ひさき」のシステム担当って何をやっているの?という質問があったら、どういう答えになるでしょうか。格好よく言うと「システム全般を担当した」ということになるのですが、別の言葉で言うと「なんでも屋だった」ともいえるでしょう。「『ひさき』のシステム担当」という言葉は、とても広い意味を含んでいます。限られた誌面ですべてを網羅することはできませんが、少し例を挙げてみたいと思います。

(1)衛星のシステム開発

 衛星は、これまでのコラムで紹介したような複数のサブシステムから構成されています。それらのサブシステムの状況を横通しで把握し、衛星全体としてミッションを達成できるよう束ねるのが、システム担当の大きな役目です。大電力が必要にもかかわらず太陽電池の面積が不足していてはいけませんし、高い姿勢安定度が必要なのにそれを邪魔する柔軟構造物があってはいけないわけです。また、衛星の各機能をどの地上試験で確認するか?といった試験・検証計画も立案します。さらに、開発中の衛星が、安全上の要求やイプシロンロケットの要求や衛星追跡系の要求など外部環境からの要求に適合しているかを常に確認し、必要に応じて衛星設計を変更したり、外部要求の変更をお願いしたりすることもあります。つまり、システム担当は衛星だけを見ていては駄目で、その外側の環境にも気を配る必要があるわけです。個別分野を深く掘り下げるサブシステムに対して、システム担当は広い範囲を矛盾なく成立させるために奔走することになります。

(2)開発活動のマネージメント

 開発活動を円滑に進めるためには、どれだけの資金がいつごろ必要かを見極め、適切な時期に申請し獲得する必要がありますし、配算された資金を用いてメーカー各社と契約を結ぶ必要があります。当然、宇宙研内の各専門部署の支援を受けるわけですが、「ひさき」プロジェクトではシステム担当が主要な役割を果たす必要がありました。この活動は、一見するといわゆる事務的な仕事のように思われるかもしれませんが、私はそうは思っていません。やろうとしている作業がどのくらい複雑でどのくらいの時間と人員が必要なのかといった技術的な判断をしないと金額を見積もることができませんし、メーカー各社との調整もできません。また、配算された資金が希望額に満たない場合でもプロジェクトを止めるわけにはいきませんから、何かをグレードダウンしてでも先に進める必要があります。このときにミッション失敗につながるグレードダウンは絶対に避けないといけないので、どの部分のグレードダウンであれば許容可能かを技術的に判断する必要があります。このように、一見技術的でない作業に見えても、実は技術的背景を持っていないと対応を見誤ることがあります。

 これらの例以外にも、「ひさき」のシステム担当は、例えば衛星の輸送に関するさまざまな手続きを行ったり、射場作業で衛星班を運営したりもしました。「ひさき」システム担当の担当範囲がいかに広いかをご理解いただけたでしょうか?プロジェクトを成功させるためには、システム担当がある意味「なんでも屋」になって、いろいろな場面でバランスよく活動する必要があると考えています。

 さて、ご存知の通り「ひさき」は“小型”科学衛星の初号機です。「衛星の大きさ」「開発チームの規模」「資金の規模」は小型といえるかもしれませんが、「作業の内容」については、実は何も小型になっておらず、ロケット、射場、衛星管制系も新規でしたので、むしろ調整事項は多かったと感じています。「作業の内容」が小型でないのに、「チームの規模」と「資金の規模」が小型ということは、開発に当たっては個々のメンバーへの負担が大きく、かつ大きな不具合を出せないという厳しい状況に置かれていたことを意味しています。にもかかわらず「ひさき」が成功したのは、メーカー各社、JAXAを含め信頼できるメンバーが集まり、形式にとらわれない実のある議論を行うことで、先々の不具合を未然に防ぐことができたからといえるでしょう。

 最後になりますが、「ひさき」の開発・運用にご尽力いただいたメーカー各社の皆さま、JAXA開発・運用メンバーおよびご関係の皆さまに、心からお礼を申し上げます。また、今回を含めて10回の連載をご覧になってくださった皆さま、惑星分光観測衛星「ひさき」とキャラクター「きょくたん」に興味を持ってくださってありがとうございました。今後も、「きょくたん」の活躍を見守ってください。

図1 ロケット引き渡し直前の集合写真

図2 2013年9月14日の打上げ直後のイプシロン管制センター(ECC)衛星管制室の様子
みんな衛星のことを一瞬忘れてロケットを映し出しているモニタを凝視。

(なかや・こうじ)