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ISASコラム

第2回:極端紫外線で惑星観測を 山ア 敦 太陽系科学研究系 助教 SPRINT-Aミッションマネージャー

(ISASニュース 2013年5月 No.386掲載)

 好きな色は何色ですか? 「極端紫外色」が好きな方はいませんか? 惑星の生い立ちが垣間見えるのですよ!! といっても人間の目では見えないのですが……。

 極端紫外線と呼ばれる波長100 nm付近の紫外線で惑星圏をリモートセンシング観測するミッションが、「惑星分光観測衛星」(SPRINT-A:Spectroscopic Planet Observatory for Recognition of Interaction of Atmosphere)搭載の「極端紫外線望遠鏡」(EXCEED:Extreme Ultraviolet Spectroscope for Exospheric Dynamics)です。今夏、イプシロンロケット試験機によって内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定で、高度約1000kmの地球周回軌道から惑星を観測する計画です。この波長帯での観測は、惑星探査機での観測も数例しかなく、まだまだ新しい成果が期待される観測分野です。

 太陽系の8つの惑星には、それぞれ特徴的な惑星圏(惑星本体と大気圏や磁気圏など惑星が支配する範囲)が形成されています。そのうち私たちの地球だけが、水と大気と温度に恵まれ、多種多様な生命体が育まれている惑星です。恵まれた惑星圏の成立条件を考究するときEXCEEDが本領を発揮します。そのためには現在の惑星圏環境の多様性を知ることが重要です。惑星圏の外側の宇宙空間は、太陽風と呼ばれる超音速のプラズマ流に満たされています。惑星圏と太陽風のバランスが重要要素で、太陽表面での爆発現象に起因する突発的に強くなる太陽風に対する惑星圏の応答が鍵となる現象です。

 惑星を固有磁場の強度順に並べてみます(図)。両端に位置する金星と木星の惑星圏環境が最も差があると考えられるため、多様性の探究には必要な観測対象となります。地球は中程度の強度の磁場を有し、太陽風と絶妙なバランスで地球圏を形成しています。少し太陽風が強くなると磁気圏が破られ、太陽風プラズマが侵入し、オーロラや磁気嵐などの現象が活発になります。金星の固有磁場はほとんどゼロで、形成される金星圏は小さく、大気圏・電離圏が太陽風プラズマと直接相互作用しています。太陽風の強弱と金星の大気散逸量の増減の関係が、金星圏を理解する鍵となります。木星の固有磁場は太陽系最大で、木星圏は太陽半径の10倍の大きさを持つ強固な磁気圏です。その最内部の衛星イオ軌道に位置するイオ・トーラスへの太陽風の影響度合いから木星圏が垣間見えます。


惑星の固有磁場強度順
惑星のサイズは、土星と木星は約1/10の縮尺、そのほかは同じ。

 SPRINT-Aの開発の課題は、時短でした。2009年から本格的な開発を始め、4年間で衛星を完成、速やかに観測運用に入り科学的成果を挙げることを至上命題として進めてきました。中型科学衛星では10年程度かかることを半分の5年で達成することになります。開発スケジュール的には厳しくなりますが、これこそが小型科学衛星の真骨頂です。科学研究の世界動向を踏まえた課題をタイムリーに解き明かすことで、真っ先に科学に貢献することが可能となります。EXCEEDも開発当初から、高い太陽活動期間中に地球軌道から惑星観測が可能な時期をピンポイントで狙っています。衛星打上げが半年早くても半年遅くても、満足する科学成果を挙げることができません。

 一方、小型と銘打っているものの譲れない箇所もあります。実は、SPRINT-Aは小型科学衛星ながら背が高い衛星です。地球軌道から惑星観測をするための5秒角という高い角度分解能の観測要求が理由で、必要な主鏡の直径と焦点距離で決断されました。こればかりは短縮することはできませんでした。ミッション部の開発は独自に、というインターフェースを持ったSPRINTバスの利点の一つだと感じています。

 次の年末年始は木星の観測好機、衝の期間です。EXCEEDサイエンスチームが提案したハッブル宇宙望遠鏡とX線天文衛星「すざく」との協調観測が決定しています。さらにハワイなどにある複数の地上望遠鏡施設にも協調観測を提案中です。すべてが採用されると、SPRINT-Aを中心に5つの人工衛星と6つの地上望遠鏡で、X線から赤外線にわたる広範囲の波長域での木星観測包囲網が張られることになります。地上からもマイナス3等星に輝く木星が夜間中ずっと見えるので、皆さんも夜空を見上げてこの観測網の一員に加わっていただければ幸いです。夏生まれのはずなのに風になびくマフラー(=大気散逸)と、最先端技術を駆使しているのに20世紀生まれのフラフープ(=イオ・トーラス)を身にまとった、とんがり帽子(=フード付き望遠鏡)の「きょくたん」をマスコットキャラクターに持つSPRINT-Aをごひいきにお願いします。


(やまざき・あつし)