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ISASコラム

最終回:縁の下の力持ち 画像取得処理装置 宇宙環境利用科学研究系 准教授 石川 毅彦

(ISASニュース 2010年3月 No.348掲載)

 2009年9月の宇宙ステーション補給機(HTV)による曝露ペイロードの輸送により、「きぼう」日本実験棟への大物実験装置の輸送は一段落しました。これからしばらくは、軌道上に運ばれた装置を利用した実験が行われていくこととなります。今回は、これまで行われた実験を陰で支えてきた「画像取得処理装置(IPU:Image Processing Unit)」をご紹介します。

 その名の通り、IPUは実験装置で撮影された動画の録画・処理を一手に受け持つ装置です。液柱マランゴニ対流実験、氷の樹枝状結晶やザロールのファセット結晶の成長実験などでは、画像が非常に重要なデータです。スペースシャトルが退役して国際宇宙ステーション(ISS)から地上への回収重量の低下が予想される今後は、ますます画像データの重要性が増すと予想されます。そのような重要なポジションにあるIPUですが、直接実験にかかわる装置でないことから、かわいそうに、これまでこのコラムで取り上げられることはありませんでした。
図1 「きぼう」に搭載された画像取得処理装置(IPU)
 IPUは図1の通り、流体物理実験装置、溶液結晶成長観察実験装置とともにRYUTAIラックに搭載されています。IPUは、実験装置から同時に5チャンネルのビデオ信号を取り込むことが可能です。また、5台のハードディスクに動画を録画します。図1に見える6個の細長い長方形の部分がハードディスクの差し込み口で、搭乗員によってディスクを交換できるようになっています。さらにIPUは、5チャンネルの画像を圧縮・多重化(多数のチャンネルデータを一つにまとめること)して、「きぼう」の高速系の伝送ラインを経由して地上に送信する機能を有しています。動画は非常に情報量が多いので、圧縮なしに伝送することは困難です。

 IPUの開発は今から15年ほど前に始まりました。民間の映像技術・規格は、デジタル技術の進展と相まって日進月歩、非常に移り変わりが早いものです。そんな中で、IPUの仕様・規格が時代遅れとならないかが大きな懸念でした。録画機能の仕様(最初はDVテープ)は、その後の民生品の進歩を反映して、ハードディスクに変更されましたが、圧縮機能(MPEG-2)は幸いなことに今でも現役の規格なのでほっとしています。
図2 IPUと加速度計測装置との通信系統
 IPUのさらなる機能は、Ethernetのインタフェースを有し、軌道上のノートパソコンとLANケーブルを通じてデータの送受信ができることです。この機能は、加速度計測装置など「きぼう」システムと直接通信インタフェースを持たない(比較的小型の)実験装置と地上との連係に重要な役割を果たします。図2の通り、実験装置は「きぼう」システムと低速系と高速系の通信インタフェースを持ちます。実験装置は、低速系を通じて地上からの遠隔操作コマンドを受け取ります。また、高速系を通じて実験装置のデータや画像を地上に送信します。ところが、加速度計を制御するノートパソコン(MLT※)などはこれらの通信系と接続されていないため、そのままでは地上から遠隔操作ができません。そこで、IPUが有するEthernetを利用し、IPUを経由してコマンドを送信します。IPUには低速系を通じて受け取ったコマンドを解釈し、Ethernetを通じてつながれている機器に転送する機能があります。また、MLTなどに蓄えられたデータも、Ethernetを通じていったんIPUに送り、IPUから高速系を通じて地上に伝送することができます。このように、画像ばかりでなく多様なデジタルデータを取り扱えるIPUは、ISSでの柔軟な実験運用に多大な貢献をしています。

 「『きぼう』の科学」をご愛読いただきありがとうございました。17回にわたり「きぼう」で行われる科学実験や実験装置・実験供試体について紹介してきましたが、いったん区切りを付けたいと思います。2011年には温度勾配炉など新たな装置がISSで運用を開始する予定です。今後も『ISASニュース』を通じてこれらの新しい装置やそれを用いて行われるサイエンスについて紹介していきたいと思います。
(いしかわ・たけひこ)


※Microgravity Measurement Apparatus Laptop Terminal