TOP > レポート&コラム > ISASコラム > きぼうの科学 > 第13回:宇宙初の植物実験を目指す
(ISASニュース 2009年10月 No.343掲載) | ||
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PEU(図1)は、本実験のための実験試料(乾燥種子)、生育用照明、給水システム、換気システム、観察システムを備えており、CBEFに接続して使います。2009年8月打上げのスペースシャトルでISSに届けられました。その後約2ヶ月にわたり、植物の生長を観察する実験を行います。PEU内部機器の制御は、付属の実験用ラップトップ(ELT:Experiment Laptop Terminal)によって行います。照明は連続光を照射し、給水は植物の生長により蒸散量が変わるためフィードバック運転になっています。容器内の湿度が上がり過ぎると受粉や結実に影響するため、換気ポンプで容器内の換気を行います。容器近傍温度を微調整するためにヒータも付いています。このように植物の生育に必要な環境条件を整えるための内部機器は運転プログラムにより制御されており、運転ファイルにはポンプの運転タイミング、ヒータのON/OFF条件などが記載されています。クルーが実験開始操作をした後は自律運転となり、容器内の温湿度データ、給水/換気ポンプ・ヒータのステ−タスなどのログを収集します。実験中は1日2回ログファイルを地上にダウンリンクして、実験状況を確認します。生長のフェーズに応じて適切な条件を記載した運転ファイルを地上から送り、書き換えます。植物の生長の様子は内部カメラで撮影し、その画像は1日1回、共通実験装置の画像取得処理装置を経由して地上にダウンリンクします。
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このように宇宙での植物の画像を地上に送って毎日観察するだけでなく、宇宙で採れた種子を地球に持ち帰り発芽させて生育状態を観察し、地上と宇宙の違い、普通の生育との違いなどを調べます。
もう一つ、植物の細胞壁に関する実験もします。重力のない環境で細胞壁構築にかかわる遺伝子の働きがライフサイクルの各段階でどのように変化するかを、宇宙で育てた植物を化学固定して冷蔵または冷凍状態で地球に持ち帰って調べます。 この実験に使うシロイヌナズナは、種子が発芽し次の世代の種子が採れるまでに約60日間と、ライフサイクルが植物の中では短いことが特徴です。また、高等植物の中で最も早く全ゲノムが解読され、ライフサイクルに対する重力の影響を遺伝子レベルで解析することが可能になりました。それでも、このような実験は、2週間程度の飛行期間しかないスペースシャトルでは行うことができませんでした。また、微小重力区と人工重力区(1g)で同時に植物を育成して種子を採る対照実験は、成功すれば世界初となります。長期滞在が可能なISSならではの実験です。この実験によって、将来宇宙で植物生産を行うために必要な基礎情報が得られることを期待しています。 |