TOP > レポート&コラム > ISASコラム > きぼうの科学 > 第11回:全天X線監視装置MAXI(マキシ)激動する宇宙が見えてくる
(ISASニュース 2009年8月 No.341掲載) | |
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MAXIは全天からのX線を長期にわたって観測します。突発的なX線増光現象を逃さずとらえ、時々刻々と変化する「全天のX線画像」を作成します。MAXIで検出した増光天体の情報(位置と明るさ)は、インターネットで即座に公開します。世界各地の望遠鏡や天文衛星のチームから、追観測開始のためのトリガー(きっかけ)として期待されています。MAXIはX線ガスカメラ(GSC)とX線CCDカメラ(SSC)を搭載し、それぞれ2〜30keVと0.5〜12keVのX線光子エネルギー領域を撮像分光観測します。これまでの全天X線モニタの10倍の感度を持ち、我々の銀河系内の天体はもとより、系外天体(活動銀河核など)からのX線放射の強度変化まで監視できます。 なぜ全天を監視する必要があるのでしょうか? 地上の実験室では調べる対象物(供試体)にいろいろな物理的・化学的刺激を与え、それに対する変化や応答を計測することにより、供試体の素性を明らかにします。ところが天体観測では、相手が遠すぎて、巨大すぎて、例外(テンペル1彗星や月への一撃)はありますが、人為的な刺激で供試体(天体)に変化を引き起こすことは不可能です。ただ観測するのみです。明るさが変化しない天体からでも、分光観測や高解像度撮像の手法により、多くの情報を引き出すことはできるのですが、X線天体の多くは自ら勝手に明るさや色を変化させて、さらに多くの情報を観測者に与えてくれます。例えば、単純に明るいときを狙って観測すれば、質の良いデータを取得できます。明るくなる天体を狙って観測すれば、めったに起こらない貴重なイベントの真っ最中を世界で初めて目撃できるかもしれません。高解像度撮像でも点にしか見えない天体の大きさや、分光観測からだけでは得るのが難しいガス密度などの情報が、時間変化の観測から得られます。明るいときと暗いとき、違う状態の比較は天体の正体解明に役立ちます。X線天体には、いつ明るくなるか分からないもの(例:X線新星)や、明るさの変化がゆっくりのもの(例:超巨大ブラックホール)が多くあります。全天を長期にわたって常時監視すれば、これらの時間変化を逃さずとらえることができます。ここに、全天X線モニタ活躍の場があります。 次にX線反射望遠鏡衛星(例:「すざく」衛星)と、全天X線モニタ(例:MAXI)の役割を比較してみましょう。X線反射望遠鏡衛星は高解像撮像能力と高集光能力を持ち、個々の狙った天体から得られるデータの質と量で、完全にMAXIを圧倒します。しかし、視野の大きさ(立体角)は満月(直径0.5度角)程度に限られます。視野が比較的大きな軟X線反射望遠鏡衛星ROSATでさえ、直径2度角でした。全天の大きさは満月20万個分以上もあるため、普通のX線反射望遠鏡衛星で全天を常時監視するのは不可能です。一方MAXIは反射鏡を持たない一種のピンホールカメラです。短時間の間に個々の天体から集めることのできるX線は少量です。その代わり広い視野を実現します。MAXIは、たった90分間でほぼ全天を見渡し、その全天スキャン観測を5年以上にわたって継続します。MAXIは、突発増光天体の発見、個々の天体の長期にわたるX線強度変動の監視、非常に大きな立体角に広がったX線源の観測に有利です。このようにX線反射望遠鏡衛星と全天X線モニタには、それぞれ得意分野があり、助け合える関係にあります。 MAXIは間もなく始動します。初期運用状況やファーストライト画像(8月取得予定)は、次の機会に報告させていただきます。 |