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ISASコラム

第10回:「きぼう」完成!船外実験プラットフォーム利用、開始!! ISS科学プロジェクト室 主任研究員
高柳昌弘

(ISASニュース 2009年7月 No.340掲載)

 国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船内実験室などが、昨年、2度にわたって打ち上げられましたが、3度目にして最後の組み立てフライトが、本稿執筆時点で2009年7月11日に予定されています。このフライトで、船外実験プラットフォームおよび船外パレットが結合され、「きぼう」はいよいよ完成となります。
 7月に打ち上げられる船外実験プラットフォームは、イラストにあるように、「きぼう」のポートサイド(ISS進行方向に向かって左側)に庭のように広がった施設で、宇宙空間に直接曝された環境を提供する施設です。1.85m×0.8m×1.0m、重量500kgを最大値とする標準ペイロードを10個搭載する能力を持っており、天体・地球観測、技術開発など、ISSの“屋外”で実施する種々のミッションが計画されています。
 船外実験プラットフォームは搭載ペイロードに対し、結合点を通して、電力、通信および熱制御用流体の3つのサービスを行います。電力は最大3kW、通信は、MIL-1553Bによるバスライン(低速系)、イーサネット(中速系)および光通信(高速系)の3種が用意されています。流体循環による能動的熱制御は、ISS上のほかの船外実験施設にはない最も特徴的なもので、これにより、前述のサイズ・重量のペイロードとしては圧倒的に大きな電力消費・排熱が可能となっています。
図1 船外実験プラットフォームと日本の最初の3ミッション
 一方で、ISSは多目的の超大型施設であるため、制約となる事項もあります。船外実験プラットフォームは、ISSの外部施設として観測ミッションへの適応が期待されますが、専用の衛星とは異なり、特に軌道・姿勢・視野などには配慮を要します。船外実験プラットフォームからの観測視野は、ISSの要素自体によりかなり遮られます。特に太陽を指向して周回ごとにトラスを軸に回転する太陽電池アレイは、大きな遮蔽物であり、取り付け点・視線方向ごとに視野解析を行い、取り付け位置の最適化を図る必要があります。
 ISSの軌道傾斜角は51.6度であり、極域の地球観測は不可能です。例えば、地球大気観測ミッションであるSMILES(超伝導サブミリ波リム放射サウンダ)では、視野を進行方向左側に傾けることにより、南半球側をあきらめ北半球側の高緯度の観測範囲を稼ぐ、という工夫をしています。また、ISSの軌道・姿勢の制御は、微小重力環境への擾乱を招くため、常時、精度よく行われるという運用はされません。そのため、姿勢・軌道変動は単独の観測衛星よりかなり悪いものとなっています。例えば、軌道高度は350〜450kmの範囲で変動し、標準的な姿勢からのずれは、各軸±15〜20度です。そのほか、変動レート、配信姿勢情報の精度なども含めてミッションを計画する必要があります。実際、天体・地球観測ミッションであるMAXI(全天X線監視装置)とSMILESでは、自前の姿勢決定装置を搭載しています。


図2 スペースシャトルへの搭載作業中の船外実験プラットフォーム(右上)と船外パレット(手前)。船外パレットには、MAXI(右)、SEDA-AP(中央)が搭載されている。(写真提供:NASA)
 ISS周辺は、構造物からのアウトガス、船内からのベント・リーク、ISS自身や往還機のスラスタからのプルームなど、数々の汚染源があります。特に、光学部品、冷却デバイスなど汚染が致命的なダメージにつながる構成品を含むミッションは、何らかの付加的対策を設けることも考慮する必要があります。
 JAXAでは、上述のようなISSの制約を回避しつつ、船外実験プラットフォームの特徴を最大限に活かした数々の利用計画を進めています。日本の第1期利用の3ミッション、すなわち船外実験プラットフォームと同時に7月に打ち上げられるMAXI、SEDA-AP(宇宙環境計測ミッション装置)および9月打上げ予定のSMILESについては、来月号以降、本連載で、順次詳しく紹介されます。乞うご期待! また、それらに引き続く第2期利用として、超高層大気や高エネルギー宇宙線の観測、展開構造やロボティクスの技術実証の計画を進めています。