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ISASコラム

第8回:地球を観測する宇宙天文台

(ISASニュース 2008年1月 No.322掲載)


超高層大気プラズマイメージャー(UPI)
 東京大学、国立極地研究所、東北大学そして宇宙科学研究本部が、それぞれの得意な部分を持ち寄り完成させたのが、超高層大気プラズマイメージャー(Upper-Atmosphere and Plasma Imager:UPI)です。この観測機は、月を巡る軌道上から常に地球の方向を向いています。UPIは赤道儀とその上に載る2台の望遠鏡で構成されています。1台は極端紫外光を使って地球周辺のプラズマを撮像観測することを目的とするTEX、もう1台は可視光でオーロラや大気光のグローバルな分布を観測するTVISです。

 極端紫外光を用いたプラズマの可視化は、火星探査機「のぞみ」の時代に始まりました。観測機の重量制限や軌道の制約から、撮影範囲はかなり限られたものになりましたが、それでも世界で初めて地球の周辺のプラズマを1枚の像に収めることができました。2000年に入り、米国が地球周辺プラズマの撮像専用の人工衛星「イメージ」を打ち上げ、日本の成果は影が薄くなりました。月周回衛星「かぐや」に搭載したTEXには、米国の観測技術をしのぐ多くの工夫がされています。「かぐや」からの撮影は、日本のプラズマ撮像グループがもう一度、世界のトップに返り咲くチャンスなのです。

 国立極地研究所を中心に、オーロラ観測のために明るい光学系と高感度CCD撮像素子を備えた地上観測用カメラを開発してきました。現在それらのカメラは、南極昭和基地、南極点基地や北極の観測拠点で活躍しています。TVISはそれらの開発で培われたノウハウをもとに生まれました。5枚のフィルターを切り替えることで、オーロラや大気光の輝線スペクトルの波長を選択できます。地球を周回する低軌道衛星では一度に見渡せる範囲は地球半球面積のわずか4.5%ですが、38万km隔たった月からは地球半球の約98%を一望できます。TVISはこのような衛星軌道の特徴をいかして、南北両半球のオーロラ帯を同時に撮像することができます。


超高層大気プラズマイメージャー(UPI)

高精細度映像取得システム(HDTV)
 高精細度映像取得システム(High Definition Television System:HDTV)は、衛星の下部モジュールに取り付けられています。システムには広角カメラと望遠カメラの2台があり、衛星の前進方向と後退方向の地平線をそれぞれ狙っています。カメラは2/3型200万画素のCCDをRGBに3枚用いた3板カラー方式です。カメラで撮影した映像は、デジタル圧縮して、書き換え可能な不揮発性半導体メモリに記録します。記録の際に、標準モード(1倍)のほかにインターバル記録モード(2倍、4倍、8倍)を選択できます。メモリ容量は1GBで、ハイビジョン動画1分間相当の保存が可能です。

 HDTVの目的には、広報や放送を通して広く国民に「かぐや」や宇宙開発を理解してもらうことがあります。「かぐや」が月に向かう途中の2007年9月29日には、地上11万kmの距離から地球を撮影しました。また、月の周回軌道に投入されてからは月の高地や海、極地域など興味深い地形を選んで撮影を行っています。特に、月の地平線から昇る(沈む)「地球の出(入り)」の映像は、荒涼とした月との対比から「地球はかけがえのない存在」と、あらためて感じ入る人が多かったようです。今後の地球環境を考える契機として、また若い人たちの科学への関心を呼び起こすきっかけに、これらの映像が役立てばと思います。

 HDTVの分解能は100m程度ですが、広い範囲を一度に見渡し、動画で斜めに観察できるため、地形の特徴を直感的につかみやすいといわれています。ほかの科学観測機器との共同研究も期待されます。また、HDTVには民生機器の宇宙での実証試験という側面もあります。運用条件を工夫して、適切な改修と試験を行えば、地上の複雑な機器も宇宙で使えることが示されました。CCD撮像素子の白傷発生については予想よりも少ないという結果が出ており、今後の長期観察が期待されます。


高精細度映像取得システム(HDTV)広角カメラによる賢者の海(2007年12月5日撮影)