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ISASコラム

第3回 月の鉱物分布探査

(ISASニュース 2007年7月 No.316掲載)

月周回衛星「かぐや(SELENE)」はマルチバンドイメージャ(MI)とスペクトルプロファイラ(SP)を搭載し、月表面で反射された太陽光を観測することにより、月全球の鉱物分布を調べます。MIでは月面観測史上最高の空間分解能で表層分光画像を、SPでは世界最初となる可視〜近赤外波長域の連続反射スペクトルを月全体にわたって取得します。


月全球の鉱物分布把握の重要性
 月表層の鉱物分布は、従来の探査機データでは定性的にある種の鉱物が多い、少ないといったことしか分かっておらず、今回MIやSPのデータにより初めて詳細な鉱物分布(鉱物の種類や量比、化学組成)を調べることができます。月表層の鉱物分布を調べることにより、鉱物が生成される元マグマの温度・圧力条件や、その化学組成に関する情報が得られます。さらに、それらの情報から、月の形成初期にあったと考えられているマグマオーシャン(マグマの大洋)からの地殻の形成や、海(月表面のうちウサギなどの模様として見られる暗い部分で、噴出した溶岩流が固まった領域)の溶岩流活動の歴史など、月の進化過程や、月の起源を大きく制約するマントルなど月深部の化学組成を推定することができます。

 また、アポロ計画やルナ計画によって地球に持ち帰られた試料はすべて月の表側から採集したものですが、つい数年前までは、これらの試料を研究することで月全体の起源や進化を知ることができると考えられていました。それが、最近の月隕石に対する研究などから、月の裏側には表側とは異なる元素の割合(Feに比べてMgの量が多い)を持つ鉱物が分布している可能性があるといわれ始めており、月裏側の鉱物分布を知ることにも注目が集まっています。



マルチバンドイメージャ(MI)
 MIは、LISM(月面撮像/分光機器)観測機器の一つで、可視および近赤外波長域用各1本ずつ合計2本の集光系を持っています。これら2本の集光系により合計9つの波長での月表層分光画像を取得して、鉱物の種類ごとに異なる特徴的な色(吸収帯)を識別し、全球にわたり月表層の鉱物分布を知ることを目的としています。MIのデータは、これまでに得られているデータと比較して1桁高い月面空間分解能(月面から高度100kmで観測する場合、可視域で約20m/画素、近赤外域で約60m/画素)と高い信号/ノイズ比(可視波長域で100以上、近赤外波長域で300以上)を持っています。

 これらの性能を活かし、月の内部物質が露出していると考えられているクレータの中央丘や内壁に存在する数百mの微細な層構造の探査をすることで、地殻の垂直構造に関する重要な情報が得られると期待されます。また、形成年代が古いため鉱物の色(吸収帯)が不明瞭になっていて解析が困難であった月高地(月表面で明るく見えている領域)の調査にも、威力を発揮すると考えています。


マルチバンドイメージャ(MI)
MIと地形カメラ(TC)は筐体を共有している。集光系が入っている箱の一辺は約30cm。

スペクトルプロファイラ(SP)
 SPは、MIと同じくLISM観測機器の一つで、月表面で反射された太陽光を0.5〜2.6μmの波長範囲で連続分光観測を行い、得られた反射スペクトルより月表層の鉱物量比や鉱物の化学組成を求めることを目的としています。月表面に存在する主要な鉱物は、輝石、かんらん石、斜長石、イルメナイトの四つであることが知られています。SPで得られる反射スペクトルを用いて、鉱物の種類ごとに決まっている吸収帯を詳細に調べることで、例えば輝石に含まれる元素の割合(CaやMg、Feの割合)に応じて吸収帯の中心波長位置がシフトする性質に基づいて、鉱物の化学組成を推定することができます。

 またSPにおいてもクレータの中央丘や内壁は重要な観測対象であり、SPデータを用いて月表層の鉱物量比や鉱物の化学組成を求め、MIデータからそれらの分布状態を把握することによって、統合的な解析を行うことができます。

 MI、SPともに、これまでに観測機器フライトモデルの製造および光学性能試験など観測機器単体で実施するすべての性能試験を終了しており、現在は種子島宇宙センターにおいて、最後の試験や打上げに向けた準備を行っています。