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第2回:月の元素組成探査
(ISASニュース 2007年5月 No.314掲載)
月周回衛星SELENE(セレーネ)は蛍光X線分光計(XRS)とガンマ線分光計(GRS)を搭載し、月から出てくるX線やガンマ線を観測することによって、月の元素組成と地域分布を全球的に、史上最高の精度で調べます。
主要元素、放射性元素、揮発性元素を測定
元素組成は、天体を構成する物質やその物理的・化学的な性質を決めるので、天体の起源や進化を知るための重要な手掛かりです。周回軌道からの遠隔探査では主に、主要元素、放射性元素、揮発性元素を測定します。微量元素や年代測定に必要な同位体測定などを行うのには、サンプルリターンが必要です。
主要元素とは、岩石の主な構成元素(マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄など)のことで、岩石タイプの決定に不可欠です。太陽X線や宇宙線が天体表面に照射することで生じる、元素に固有なエネルギーを持つX線やガンマ線の観測によって調べます。クレータなど掘削された場所、熔岩など内部物質が噴出した場所では、表面だけでなく深部の情報も得られます。
放射性元素はカリウム、トリウム、ウランなどで、自然に放射壊変する際に出すガンマ線を観測します。放射壊変エネルギーは天体内部の熱源になるので、その存在度は惑星の熱史の解明に重要な手掛かりとなります。
月の極域のクレータ底は、1年を通して日陰となる永久影です。彗星起源の塵や隕石に含まれる水などの揮発性成分や、太陽風の陽子が月表層と反応してできた水が永久影内にトラップされ、蓄積している可能性があります。
月全球の元素組成探査の必要性
実は、月の元素組成は、いまだによく分かっていません。アポロ周回船によるX線・ガンマ線探査が行われたのは、赤道付近の一部の地域だけです。月の海が常に地球から見える表側に多く裏側に少ないこと、重心が形の中心よりも地球側にずれていることは知られていましたが、1990年代以降に行ったクレメンタインの多色撮像観測、ルナープロスペクタのガンマ線・中性子線の観測で、鉄やトリウムなどの濃集度に大きな地域的偏りが発見されました。その成因は、現在の重要な科学テーマです。しかし、低いエネルギー分解能での観測結果や多くの仮定を含む解析法に基づいた議論であり、また元素の種類も少ないため、 SELENEによる観測がこの科学テーマの解明に大きく貢献すると期待されます。
アポロやルナによって月面の数地点から試料が回収され、それらの分析結果をもとに物質科学的観点から月の進化が論じられてきました。しかし回収地点が表側赤道域に限られており、それらを月の代表とすることは困難です。月から飛来した隕石の中には、マグネシウム組成など回収試料と特徴が異なるものも見つかっており、月全表面の探査が必要なことを裏付けています。
蛍光X線分光計(XRS)
史上初の月全球X線探査を行うXRSは、「はやぶさ」で小惑星イトカワの元素組成を調べた機器の発展型で、検出器に電荷結合素子(CCD)を使用します。主要元素の蛍光X線を含む1〜10キロ電子ボルトのエネルギーを検出し、各元素の蛍光X線を分離できる高いエネルギー分解能があります。SELENE衛星の対月面速度が秒速1.5kmと速いので、高い空間分布を得るために短時間で統計的に有意な観測ができるよう、CCDを16枚並べて総面積100cm
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に大面積化しています。太陽X線が時間変動する影響を補正するため、シリコンPIN型検出器による太陽X線の直接モニタと、標準試料に太陽X線が照射して発生するX線の較正観測を同時に行います。月全球の岩石タイプとその分布を調べるほか、クレータ中央丘や熔岩ドームなど10km規模の地質構造まで観測して、深部物質の手掛かりを得ます。
ガンマ線分光計(GRS)
GRSは検出器に高純度ゲルマニウム結晶(250cm
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)を用い、スターリング冷凍機によって絶対温度90度以下に冷却することで、0.2〜12メガ電子ボルトの広いエネルギー域を3キロ電子ボルトという高い分解能で観測し、ほぼすべての主要元素、放射性元素、揮発性元素を調べます。月面以外からくる高エネルギー粒子やガンマ線はBGO結晶のシールドで除去します。月全球のガンマ線探査はルナープロスペクタですでに実施されましたが、圧倒的に優れたエネルギー分解能によって、元素組成の決定精度や元素の種類が飛躍的に向上します。空間分解能は約100kmですが、周回軌道の重なりを利用して実効的に向上させます。また、現在計画中の月探査機では、永久影内の氷の存否を水素の存在度から直接観測できる唯一の観測機器であり、その成果は世界で注目されています。
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