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ISASコラム

第1回 月周回衛星SELENE この夏いよいよ打上げへ

(ISASニュース 2007年4月 No.313掲載)

 2007年夏、いよいよ「SELENE(セレーネ)」衛星が打ち上げられる。H-IIAロケットを使って、1トン余りの燃料込みで約3トン重量の人工衛星が打ち上げられる予定である。日本の月探査は、1990年に「ひてん」衛星で月軌道投入などの技術試験を行っており、2度目の月行きである。

 アメリカが1994年に打ち上げたクレメンタイン衛星450kg、ルナープロスペクタ衛星300kg、昨年9月に月面衝突で使命を終わらせた欧州宇宙機関のスマート1は366kg、今年打上げ予定の中国のチャンゲ2トン、来年春予定のインドのチャンドラヤーン1.1トン、来年秋予定のアメリカのルナリコネッサンスオービタの2トンに比べ、SELENEはかなり大きい。SELENE衛星の観測機器重量は約300kgでチャンゲの2倍、チャンドラヤーンの5倍である。SELENE計画は月周回軌道から15種類の観測機器でグローバルマッピングを行うものであり、複数機器の同時観測によるデータ取得で、統合サイエンスとして月の起源と進化に迫る。


2週間かけて月軌道へ
 SELENE衛星は、地球まわりの静止軌道から、地球を2回半周回するフェージング軌道を経て月周回軌道に投入される。打上げ約2週間後の月軌道投入までに、太陽捕捉・太陽電池パドル展開、ハイゲインアンテナ展開、スターセンサ確立により衛星の電源と通信・姿勢の確立を行う。この間に、軌道投入誤差修正など数回のミッドコースマヌーバ、バス機器の動作チェックのほか、「遠ざかる地球」の撮像なども計画している。

 月周回軌道ではまず、近月点高度100km・遠月点高度1万3000kmの長楕円で傾斜角90度の極軌道に、SELENE衛星が投入される。その後、遠月点を下げるマヌーバを行い、ノミナル観測高度の100km円軌道に約3週間で投入される。その間に二つの子衛星(各約50kg)であるリレー衛星(Rstar)とVRAD衛星(Vstar)が、近月点高度100km・遠月点高度2400kmの楕円軌道と、近月点高度100km・遠月点高度 800kmの楕円軌道に、それぞれ毎分10回転のスピンで安定させて放出される。

 SELENE衛星が高度100kmの円軌道に到達した後、月軌道から地球のプラズマ圏を撮像観測するプラズマイメージャの立ち上げと、両端長が 30mの2対のサウンダーアンテナ、および先端に磁力計を装着した長さ12mの伸展マストの展開を行う。それぞれ伸展に30〜40分を要する。展開がすべて終了すると、高電圧印加を含め観測機器の電力立ち上げが行われる。約2ヶ月かけて観測機器動作チェックが終了すると、その後10ヶ月のノミナル観測期間に入る。ノミナル観測期間では、高度維持と月中心指向の姿勢制御を行う。



15種類の観測機器を搭載
 SELENE計画は、当時の宇宙開発事業団と文部省宇宙科学研究所の共同ミッションとして開始された。そのため、評価選定や審査を双方で行うこともあったが、バス機器の開発担当は宇宙開発事業団、観測機器の開発は宇宙科学研究所が責任を持つという切り分けで開発がスタートした。SELENE衛星には、14種類の科学観測機器と、広報活動を目的としたハイビジョンカメラが搭載されている。科学観測機器は、1995年度に全国の大学・研究機関の月研究者が提案したものから、宇宙科学研究所の宇宙理学委員会での評価を経て選定した。ハイビジョンカメラは1999年に担当者を公募した後、これも宇宙理学委員会の評価を経て搭載が決定した。

 次号から搭載機器の観測項目とその科学の特徴が紹介されるので、詳細はそれらを読んでいただきたい。図に、搭載機器の配置を記載した。月表面観測機器は月面指向で、月環境観測機器は反月面方向にも搭載されている。

 SELENE衛星に搭載される観測機器は、ハイビジョンカメラを含め、宇宙での使用がこれまでなかった世界最高のエネルギー分解能、空間分解能、高精度のものであり、世界最初の実験となるものも含め個々の観測機器データのみで高い科学成果が得られるであろう。しかし複数の観測機器データを統合すると、もっと大きな科学成果を生み出せる。従来二つ、三つの探査機で実行していた項目を同時に実行するSELENE計画は、効率のよいミッションである。統合サイエンスの例を挙げると、月の形成最終期にはマグマオーシャンが存在したか?月の二分性の起源は?月のバルク組成は?月のプラズマ環境は?磁場はあるか?かつてあったのか?という、月の起源と進化の謎に答えるさまざまなテーマがある。搭載機器の解説の後に、それらについて述べることとする。