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宇宙・夢・人

「あけぼの」から知っている──その経験を活かします

(ISASニュース 2012年12月 No.381掲載)
 
BepiColomboプロジェクトチーム 山下 美和子
やました・みわこ。1967年、東京都生まれ。神奈川総合高等職業訓練校電子計算機科卒業。1986年、鞄s築ファコムセンター(現 富士通エフ・アイ・ピー・システムズ)入社。2012年より現職。
Q: 今年6月、非常勤の招聘職員として宇宙研の一員となりました。今、どのような仕事をしているのですか。
2015年8月打上げ予定の水星探査計画BepiColomboのMMO(水星磁気圏探査機)の地上系システムの取りまとめを担当しています。地上系システムとは、衛星や探査機が今どういう状態にあるのかを把握したり、衛星に指示を送ったり、衛星が観測したデータを受け取ったりするものです。地上系システムは各衛星に共通した部分もありますが、目的や特性、搭載している観測機器に応じて衛星ごとに構築する必要があります。
Q: 宇宙研に入る前は?
富士通系の会社の社員として、1989年に打ち上げられた磁気圏観測衛星「あけぼの」に始まり、工学実験衛星「ひてん」、太陽観測衛星「ようこう」、小惑星探査機「はやぶさ」など、宇宙研のほぼすべての衛星の共通QL(クイックルック)の作成を担当してきました。QLとは地上系システムの一つで、衛星から送られてきたデータをリアルタイムで表示するシステムです。
Q: どういう経緯でその仕事に就いたのですか。
高校のころコンピュータが一般的になり始め、最先端技術で面白そうだと思い、職業訓練校で電子計算機を学びました。そして都築ファコムセンター(現 富士通エフ・アイ・ピー・システムズ)にシステムエンジニアとして入社したのです。入社後、宇宙系と事務系の部署があるという説明を受けました。宇宙系は大変そうなので事務系を希望したのですが、宇宙系に配属されてしまったのです。入社2年目の1988年から宇宙研の仕事をしています。
Q: 宇宙に興味はあったのですか。
まったくありませんでした。衛星は「ひまわり」しか知りませんでした。そんな状態で現場に投げ込まれ、上司や宇宙研の先生に怒られながら、必死で仕事を覚えていきました。今の私を知っている人には信じられないかもしれませんが、当時の私は引っ込み思案で、男の人とは話もできないほどでした。職場は男性ばかりで、拘束時間も長い。普通のOL生活を夢見ていた私は、3年と持たないだろうと思っていました。
Q: にもかかわらず、25年以上にわたって続けられた理由は?
衛星の打上げを経験してしまったからだと思います。衛星は宇宙研やメーカーの人たちがみんなで協力して何年もかけてつくり上げていきます。私は、その様子を間近で見ています。その衛星が宇宙に旅立っていくのですから、ものすごい感動です。そして衛星からのデータが共通QLの画面に初めて現れるまではドキドキです。あの感動と緊張感はこの仕事をしていないと味わえないと思い、やめられなくなってしまったのです。そして気が付いたら性格まで変わり、打上げのときは宴会副部長として歌と踊りでプロジェクトの士気を盛り上げています。
Q: 印象に残っている衛星は?
つらい思い出なのですが、2000年に打上げに失敗したASTRO-Eです。みんなでつくり上げてきたものが一瞬でなくなってしまった。とてもショックでした。その失敗がきっかけとなり、宇宙研とメーカーといった組織を超えた結束が強まりました。2005年に行われた再製作機のX線天文衛星「すざく」の打上げは、必ず成功させるという強い思いで臨みました。
いい意味で印象に残っているのは、1990年打上げの「ひてん」です。月面に落下させてミッションを終了する直前、きれいな月の写真を送ってきてくれました。最後まで一緒にいられた、と感動しました。「はやぶさ」ではないの?と、皆さんは思うかもしれませんね。確かにカプセルの電源が入ったことが共通QLに表示されたときには、感動しました。でも、はやぶさ君には苦労させられたなあ、という思いの方が強かったですね。
Q: 地上系システムの魅力は?
地上系システムは、宇宙に飛び立っていった衛星と会話するただ一つの手段である、という点ですかね。地上系システムにトラブルがあったら、衛星がどんなに素晴らしい観測をしても、そのデータを手にすることはできません。上司からは「地上系システムは、衛星に迷惑を掛けてはいけない」と教え込まれてきました。失敗は許されないのです。それは、これからも心に刻んでいきます。
宇宙に関わる仕事がしたいと思い続けている人がたくさんいる中、私がこの仕事をやっていていいのかと思ったこともあります。そんな私が唯一誇れるものがあるとしたら、宇宙研の衛星をずっと見てきたという経験です。その経験を活かして、これからの宇宙研の衛星も全部やりたい! そう思っています。