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宇宙・夢・人

「アポロ13号」の管制室に憧れて

(ISASニュース 2012年7月 No.376掲載)
 
航法・誘導・制御グループ 開発員 廣瀬 史子
ひろせ・ちかこ。1980年、大阪府生まれ。お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。同大学大学院人間文化研究科理学専攻物理科学コース修士課程修了。2004年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)統合追跡ネットワーク技術部開発員。2010年より現職。
Q: 現在の仕事は?
金星探査機「あかつき」の軌道設計を担当しています。「あかつき」が2010年12月に金星周回軌道への投入に失敗した後、あらためて金星の周回軌道に入るためにはどうしたらよいか、その軌道設計を行いました。2011年11月に計画通りの軌道修正に成功し、現在は2015年に金星の周回軌道投入に再びチャレンジできる軌道を飛行中です。軌道修正を行ったときは、私も運用室で探査機の速度変化を示すモニターを見つめていました。計測値が計画通り変化して軌道修正が成功した瞬間、ほっとしました。軌道投入失敗からの1年間、「あかつき」の軌道のことばかりを考えていたので。
Q: 「あかつき」には打上げ前から携わっていたのですか。
いいえ。JAXAに入社して最初に配属されたのは、筑波宇宙センターの統合追跡ネットワーク技術部です。スペースデブリ(宇宙ごみ)を観測して軌道を計算し、人工衛星との衝突確率を求め、人工衛星の軌道制御の計画を立てる、という仕事を6年半していました。宇宙研に異動してきたのは、「あかつき」打上げの3ヶ月後の2010年8月です。
筑波宇宙センターでは、配属の際に担当するべき仕事が指示されます。宇宙研では指定されず、やるべき仕事を自分で探します。私は惑星探査機に興味があり、毎日「あかつき」の運用室に顔を出していました。そうしているうちに、「あかつき」の軌道設計をやってみようと思うようになりました。
Q: 軌道を設計しているとき、宇宙空間を飛行する探査機を想像したりするのですか。
私は、地球周回衛星の軌道を考えているときは、衛星の視点に立っています。一方、惑星探査機の軌道を考えているときは、自分は探査機の視点ではなく、太陽や惑星、探査機を遠く北側から俯瞰しています。不思議ですね。
Q: 宇宙研への異動は希望したのですか。
人事部には、異動するなら意外なところに行きたい、と伝えていました。意外なところほど、自分の違う面を発見できると思ったのです。それでも筑波宇宙センター内の異動だろうと思い込んでいたので、宇宙研とは意外過ぎて驚きました。
Q: 子どものころから宇宙に興味があったのですか。
小学1年生のときに先生から「月に行った人がいる」と聞いて、すごいなぁと思い、宇宙に興味を持ちました。そして、奇跡の生還を果たした「アポロ13号」の本を読んで感動。探査機の軌道を制御したりする仕事や、管制室で働きたいと思い始めました。
 高校1年生の夏、なりたい職業について調べる宿題が出ました。NASAの各センターに何通も手紙を出し、管制室での仕事や、必要な勉強について聞きました。すると1通だけ返事が届いたのです。達筆の筆記体で読めないところもたくさんありましたが、「物理学はすべての基本になるよ」と書いてあるのは分かりました。その手紙は今でも私の宝物です。
Q: 大学は、理学部物理学科に進みました。
高校が女子校でとても楽しかった分、女子が少ない航空宇宙学科へ進むのに抵抗がありました。NASAからの手紙の後押しもあり、物理は苦手だったのですが宇宙物理学を学べる大学を探しました。宇宙開発とは直接関係のない勉強に、正直不安もありました。そんなとき、JAXAの国際宇宙会議(IAC)学生派遣プログラムに参加しました。宇宙開発に携わりたいと思っている世界中の学生と交流したことで、世界が広がりました。あの経験がなければ、私は今、ここにいないかもしれません。
Q: これからやっていきたいことは?
今までソフト中心だったので、衛星や探査機などハードについてもっと知りたい。そう思い始めたころ、小型衛星「DESTINY」のワーキンググループに参加しないかと声を掛けていただき、システム設計を担当することになりました。軌道を少しずつ上げていき、月でスイングバイをして、ラグランジュ点のまわりを周回するハロー軌道に投入しようという深宇宙探査の工学実証機です。
Q: 「あかつき」については?
今はゆっくりできるでしょう、とよく言われるのですが、安全に金星周回軌道に投入するために軌道の誤差感度を解析したりと、結構忙しいです。金星周回軌道投入の1年前からは、軌道修正したり、またプレッシャーのかかる日々が始まります。でも、今から楽しみです。