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ISASコラム

宇宙・夢・人

必死に考え、こだわっていこう

(ISASニュース 2012年4月 No.373掲載)
 
宇宙飛翔工学研究系 教授 八田 博志
はった・ひろし。1950年、東京都生まれ。工学博士。慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程単位取得退学。同大学理工学部助手、三菱電機材料研究所、宇宙科学研究所助教授を経て、1995年より教授。
Q: どのような研究をしているのでしょうか。
宇宙用の耐熱材料の研究をしています。ロケットのエンジンや、大気圏に再突入する機体は、数千〜1万度にもなります。そうした高温に耐えられる材料が必要です。
1回だけで使い捨てるならよくても、繰り返し使おうとすると十分な性能、信頼性のものがない、というのが現状です。
2011年に引退したスペースシャトルも、弱点の一つが耐熱材料でした。飛行のたびに、2万枚以上もあるセラミックス製の耐熱タイルを点検し、異常があれば交換していました。それにかかる時間と労力と費用は莫大でした。また、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルの表面温度は、大気圏再突入のとき1万度を超えました。それほどの高温に耐える材料はないので、表面を覆った炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を燃やしてしまうことで本体を守る「アブレーション法」が採用されていました。燃えるときの吸熱作用や発生するガスによって本体を守ろうという逆転の発想です。
このように、耐熱材料の性能や信頼性の不足を補うために、どうにかやりくりしているという状況です。高温に耐えられる信頼性の高い材料の開発は、宇宙開発の大きな課題の一つです。
Q: 有望な材料は?
耐熱温度が高い材料はいろいろあります。しかし宇宙用となると、熱膨張率といって熱の変化による体積の変化が小さいこと、軽いこと、加工しやすいことなど、いろいろな条件も満たす必要があります。以前は、炭素系の材料が有望視されていました。耐熱温度が高く、熱膨張率も小さいのですが、酸素があると反応してしまうという欠点があります。最近は、耐熱温度が高いセラミックスも注目されています。しかし、熱膨張率が大きく、複雑な大きな形状をつくるのが難しい。どの材料も一長一短で、決定的なものはありません。添加物を加えたり、試行錯誤している段階です。
Q: 耐熱材料の研究に取り組んだのは、いつからですか。
大学で助手をした後、三菱電機材料研究所で宇宙用の複合材料の研究をしていました。宇宙研で宇宙往還機を開発するプロジェクトが立ち上がり、そのエンジンに使用する耐熱材料の研究者が必要だということで、声を掛けていただきました。もうすぐ40歳というときで、そのまま企業の研究所にいると管理職となり研究の現場から離れざるを得ません。研究の現場にいたい、と宇宙研に移ることにしたのです。しかし残念ながら宇宙往還機の実現は難しく、プロジェクトは凍結状態です。
これまでさまざまな材料の特性を調べてきました。蓄積してきた知見やデータを1冊の本にまとめたいと思っています。それが、新しい耐熱材料の開発の助けになり、宇宙往還機の実現につながれば、うれしいです。
Q: 総合研究大学院大学で学生の指導もされています。
学生と付き合うのは面白いですが、教育というのは難しいですね。研究を進めるには自分もどんどん現場に出ていきたい。しかし、私があまり出ていくと、学生が考えなくなってしまう。それでは学生は育ちません。独創的な成果を出すには、学生が自分で必死に考え、自分で手を動かす必要があります。
Q: 学生のころから宇宙に関わる仕事に就きたいと考えていたのですか。また、学生時代はどのようなことに取り組んでいましたか。
漠然と研究者になりたいと考えていましたが、宇宙に興味があったわけではありません。今この仕事をしていることが、不思議なくらいです。
学生時代は運動が好きで、ハンドボール、テニス、卓球、スキーと、いろいろな部活に入りました。しかし、どれも1年も持たずにドロップアウト。地道な練習に耐えられないのです。スキーと登山は、今でもマイペースで続けています。
Q: 研究をする上で大切なことは何だと思われますか。
こだわること、ですかね。必死に考えて自分が正しいと思うことだったら、ほかの人と意見が対立しても、こだわりを持って頑固に主張することが大切です。ただし、自分の意見が正しいかどうか必死に考えることが大前提です。  もちろん、いつも必死に考えていては疲れてしまいます。時にはリセットすることも大切。私は、週末は山に登ったり、週に3〜4日はランニングをしたりしています。それがちょうどいいリセットになっています。