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ISASコラム

宇宙・夢・人

失敗に学び、常にチャレンジングな発想を!

(ISASニュース 2011年11月 No.368掲載)
 
科学推進部 部長 鈴木 和弘
すずき・かずひろ。1962年、静岡県生まれ。1985年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。同年、宇宙開発事業団(NASDA)入社。経理部予算課、科学技術庁研究開発局宇宙利用推進室、パリ駐在員事務所、総務部調査役(宇宙3機関統合事務局)などを経て、2010年より現職。
Q: 科学推進部では、どのような業務を行っているのですか。
宇宙研の基盤機能は、学術研究、大学院教育、科学プロジェクトの三つを大学共同利用によって進めることです。それらが確実に行われるように事務系のあらゆる業務を担っているのが、科学推進部です。総務、労務、対外対応、予算、事業計画、国際、学事、研究推進、安全衛生……と多様です。所属している人のキャリアも多様。彼らをまとめるのではなく、多様性を大切にしつつ方向性だけは「三つの基盤機能の実現」に合わせ、各人の能力を発揮できる環境をつくることが、私の役割です。
Q: 科学推進部は広報も担っています。
地元や、宇宙にあまり興味がない人々へ分かりやすい言葉で広報することは重要です。しかし私は、広報だけで人々の興味を引っ張ることができるとは思っていません。宇宙研がやるべきことは学術研究であり、大学院教育であり、科学プロジェクトです。そこで画期的な成果を挙げれば、多くの人が自然と興味を持ってくれ、また第三者が広報してくれます。小惑星探査機「はやぶさ」がよい例でしょう。積極的に広報しなければならないというのは、画期的な成果が出ていないことの裏返しでもあります。私は、宇宙研からノーベル賞受賞者が出ていないことが不思議でならないのです。ぜひノーベル賞級の成果を挙げてほしいですね。
Q: 法学部のご出身です。NASDAに入社した動機は?
大学では、会社法における取締役責任論を研究していました。リスクを覚悟して経営にチャレンジする取締役がどこまで責任を負うのかと。そして、大学卒業後にどんな仕事をしようかと考えていたとき、当時新聞をにぎわせていたのが、NASDAの開発する放送衛星の不具合でした。宇宙開発にもビジネスにおけるリスクと責任という視点を取り入れるべきであり、自分が学んできたことを生かせると思ったのです。また、宇宙開発は30年後にはビッグビジネスになっているだろうと……。
Q: 実際に就職して、いかがでしたか。
最初の配属は予算課。H-Uロケット、技術試験衛星Y型(きく6号)、国際宇宙ステーション(ISS)計画を予算概算要求に乗せる時期でとても忙しく、パワフルな上司とともに1年のうち3分の2以上は会社に泊まっていました。これまでにISSの国際交渉や宇宙3機関統合事務局などいろいろな仕事をしましたが、最初のその時期が一番過酷でしたね。予算の積算をやっていると、上司から「君が計算を間違えたらNASDAひいては日本の宇宙開発は大きな損失を被る」と言われ、ものすごいプレッシャーで胃が痛い日々でした(笑)。
Q: NASDAに入ったことを後悔はしませんでしたか?
配属3日目、昼ご飯を食べに行く道すがら、「君はNASDAに向いていない。辞めなさい」と上司に言われ、ショックを受けました。「見返すぞ!」と奮起し、結果的に宇宙開発に貢献しようという強い意識が生まれました。でも、宇宙開発の歩みはあまりに遅いですね。私が50歳になるころには、宇宙空間に巨大な建造物ができていて、月の資源を開発したり、宇宙旅行も当たり前になっていると思っていました。実現したのはISSくらい。それは、とても残念です。
Q: JAXA、そして宇宙研は今後どのように進んでいくべきだとお考えですか?
日本の宇宙開発の歴史を振り返ると、さまざまな失敗がありました。失敗は、素晴らしい成果の裏返しです。JAXAはチャレンジングなことをしている機関ですから、失敗もあります。失敗をジャンプ台にして進化していくべきです。もちろん失敗ばかりでは、萎縮してチャレンジができなくなります。逆に失敗をしないことが当たり前になると、人も組織も慢心し、やはりチャレンジができなくなってしまいます。どちらも進化がありません。常にチャレンジングな発想を持っていることが必要です。
Q: モットーや趣味は?
是々非々は譲れない。いいものはいいし、悪いものは悪い。今の最大の趣味は寝ることですが、リタイアしたらイタリアでチーズづくりをしたいなあ。ブランドを立ち上げて、大きなビジネスをする……。そんなことを夢見ていたりします。