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ISASコラム

宇宙・夢・人

大気進化の一瞬を写真に撮りたい

(ISASニュース 2011年10月 No.367掲載)
 
宇宙プラズマ研究系 助教 山ア 敦
やまざき・あつし。1971年、静岡県生まれ。博士(理学)。2001年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。通信総合研究所 研究員、電気通信大学 非常勤研究員、東北大学大学院 准職員COEフェローを経て、2006年より宇宙研助手。2011年より現職。専門は光惑星科学。
Q: どのような研究をしているのですか。
ずっと取り組んでいるのは、惑星の大気進化です。地球には海があり、多様な生物が暮らしています。ところが、隣の金星や火星の環境は地球と大きく異なり、生命は見つかっていません。金星と地球と火星は、46億年前、ほとんど同じ材料からつくられたと考えられています。似ていたはずの惑星が、なぜこれほど違ってしまったのか。その謎を解く一つの鍵が、宇宙空間への大気散逸です。
ほとんど同じ材料からできた惑星には、同じような元素組成の大気が形成されたでしょう。しかし、現在の金星と地球と火星では、大気の組成が違います。惑星の上層大気は、太陽風によってはぎ取られます。惑星ごとに流出する元素の種類や量に違いがあり、その結果、運命が分かれると考えられています。それを確かめるために、惑星の大気の流出を観測しています。
Q: 大気の流出をどのように観測するのですか。
宇宙空間から極端紫外光で惑星の上層大気・プラズマを撮影します。太陽光線のうち紫外線より波長が短い極端紫外光は大気で散乱(反射)されるので、大気の分布を写真に撮ることができるのです。私たちは、火星探査機「のぞみ」に極端紫外光の観測装置を搭載し、火星大気の観測を目指したのですが、火星に到達できませんでした。その後、月周回衛星「かぐや」で地球大気の観測を行いました。
宇宙空間に流出していく粒子を直接観測する方法もあります。しかし、それでは一点についてしか分かりません。私は、全体像を見たいのです。しかも、上層大気の状態は時々刻々と変化します。その一瞬一瞬を追うには、写真を撮るのが一番。それが私のこだわりです。
Q: 研究を離れても、写真撮影が趣味ですか。
趣味は寝ること。でも、カメラは好きですよ。中学生のとき、ハレー彗星の写真を撮りたくてカメラを買ってもらったのが最初です。かなりいいカメラをねだりました。でも、彗星の写真は、簡単には撮れません。カメラのせいにしたいが、それもできない。性能を最大限に発揮するにはどうしたらよいか、試行錯誤しました。さらにさかのぼると、探査機ボイジャーが撮影した土星や木星の写真を見て、とても感動しました。それが、宇宙に興味を持った原点です。
Q: では、ずっと宇宙の仕事に就きたかったのですか?
いいえ。子どものころは、新幹線の運転手、プロ野球選手、宇宙飛行士と、なりたいものがたくさんありました。私は、自分が何が好きで何が得意なのか、よく分からないのです。最初は間口を広く取って、いろいろかじってみなければ、決められません。だから、大学の専攻は地球惑星物理を選びました。地球惑星物理では、地球のことも惑星のこともできる。さらに、地震、火山、大気、海洋と、選択肢が多いですから。最終的に、探査機に搭載する観測機器をつくることができると聞き、面白そうだなと、惑星の大気進化の道へ。「大気の全体像を写真で撮る」という視覚に訴えるシンプルな観測手法が、自分に合っていたのでしょう。極端紫外光の撮像観測をしている研究者は、世界でも数えるほど。私は人見知りが激しいので、そういう状況も都合が良かったですね。
Q: 研究をする上でのモットーはありますか。
明るく楽しく元気よく。装置開発でも、観測でも、解析でも、自分が楽しいと思ってやらなければ、良い結果は出ません。では、何をもって「良い結果」というか。他人の評価ではなく、自分が「良い」と満足できるかどうかが一番重要だと、私は考えています。まわりからいろいろ言われても、自分で楽しいと思える方向に進むべきです。
Q: 惑星の大気進化について、今後の観測計画は?
2013年度に、小型科学衛星1号機「SPRINT-A」を打ち上げる予定です。世界初の惑星観測用の宇宙望遠鏡で、大気流出の観測が重要テーマの一つです。火星と金星のスペクトル写真をたくさん撮りたいですね。国際宇宙ステーションから地球大気を観測する装置も2012年に打上げ予定で、火星の探査計画も検討中です。大気流出の現状については、少しずつ分かってくるでしょう。
しかし、本当に知りたいのは、地球や金星、火星がどのようにして今の姿になったかです。それには、40億年前、30億年前に大気がどのように流出していたかを明らかにしなければなりません。太陽活動の過去を知ることが、次の課題です。系外惑星の観測から重要な手掛かりが得られる可能性もあります。現在と過去が分かれば、未来につながります。地球の未来はどうなるのか? それに答えられることも、大気進化を研究する魅力の一つです。