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ISASコラム

宇宙・夢・人

見えないものを見たい

(ISASニュース 2011年9月 No.366掲載)
 
BepiColomboプロジェクトチーム サブマネージャ 前島 弘則
まえじま・ひろのり。1967年、神奈川県生まれ。東北大学大学院電気及通信工学専攻修士課程修了。1991年、宇宙開発事業団(NASDA)入社。地球観測センターを経て、地球観測衛星「みどりU」、月周回衛星「かぐや」の開発・運用に携わる。2009年より現職。
Q: 宇宙に興味を持ったきっかけは?
小学校5年生のとき、いとこのお兄さんに天体望遠鏡で月を見せてもらい、天文少年になりました。望遠鏡をのぞくとクレーターが鮮明に見えました。肉眼で見ていたものとは、まったく違う世界がそこにあった。見えないものが見えた。そのことに強い衝撃を受けたのです。同じころ、海外のラジオ放送を聴くことも趣味になりました。アマチュア無線も始め、大学では通信を学んだのですが、天文の夢も捨て切れずにいました。それで、通信と天文の両方に関わることのできる衛星開発を志し、NASDAに入社しました。
Q: 月周回衛星「かぐや」の開発・運用を担当されたそうですね。ハイビジョンで撮影された映像が大きな話題を呼びました。
最初にデータを受信して映像が再生されたとき、あまりの鮮明さに歓声が上がりました。私たちは運用を工夫して、科学観測データ伝送の隙間を縫い、想定よりもたくさんの映像データを月から受信しました。また、私たちは月面を高画質で撮影するとともに、月から地球を見たいと思いました。満月ならぬ"満地球"が月面から昇る機会を予測してカメラを向けると、普通では見ることのできない地球の姿が見えてきました。
Q: その後、2009年に宇宙研の所属となり、水星探査計画「BepiColombo」のマネジメントを担当されています。
「かぐや」は、旧NASDAと宇宙研が共同で開発しました。そのとき一緒だった宇宙研の早川基先生たちに誘っていただいたのです。正直、悩みました。NASDAと宇宙研、航空宇宙技術研究所が統合されてJAXAとなりましたが、それぞれの仕事の進め方、"文化"が異なるからです。旧NASDAの衛星プロジェクトでは、各分野の専門家を集め、専任の形でチームを組みます。一方、宇宙研の研究者はそれぞれ自分の研究テーマを持ち、併任の形で衛星プロジェクトに参加しています。また宇宙研では、仕事の過程を文章に残す習慣があまりありません。BepiColomboはESAとの国際協力ミッションですが、ESAは旧NASDA以上に文書文化です。
Q: 異なる文化を橋渡しする必要があるのですね。
それを期待されて、誘っていただいたのだと思います。「かぐや」でもマネジメントを担当して、宇宙研のことは知っているつもりでしたが、予想以上に忙しい方々ばかりでした。
Q: 橋渡しのコツはありますか。
それが分かっていれば、これほど苦労はしていません(笑)。ただし、それぞれ仕事のやり方は異なっていてもミッションを成功させるというゴールは一緒。ゴールに至るプロセスについては、いくらでも工夫の仕方があると思います。そのためには、やはりコミュニケーションが大事だと思います。
Q: 将来はどのような仕事をしてみたいですか。
宇宙研の研究者は、物事を深く追求する職人気質の方が多い。ただし国際協力ミッションが増え、科学衛星の規模もどんどん大きくなり、従来のやり方では、うまくいかない面も出てきていると思います。一方、大きな衛星開発を手掛けてきた旧NASDAは、さまざまな技術を統合することが得意です。ただし深みに欠ける面があります。両方の良いところを生かした新しい文化を築くために、JAXA全体のマネジメントに関わる仕事がしてみたいですね。
現在、JAXAのスキルアップの制度を利用して、土日に慶應義塾大学へ通い、博士課程でマネジメントの勉強をしています。マネジメントに最初から興味があったわけではありません。そういう立場になり、やってみると苦労は多いのですが、とても面白い。価値観の異なる人たちをうまく結び付けて、良い成果が得られたときには、大きなやりがいを感じます。
Q: ところで、名刺に「気象予報士」とあります。
ある時期から天気予報にも興味を持ち、趣味が高じて資格を取りました。仕事とはまったく関係ありません。私は、新しいことを知るのが大好きなのです。新しいものに出合うと、そういう世界やものの見方があるのかと、見えなかったものが見えてきます。すると、さらに深く突き詰めてみたくなるのです。
実は最近、畑仕事にはまっています。手をかければかけるほど実り豊かになり、工夫のしがいがあります。将来は晴耕雨読の生活が理想ですね。ただし妻には、「子どもたちが独立してからにして」と言われています。