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ISASコラム

宇宙・夢・人

You can do it!

(ISASニュース 2011年6月 No.363掲載)
 
宇宙科学プログラム・オフィス 主任開発員 吉原 圭介
よしはら・けいすけ。1975年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻修士課程修了。2000年、宇宙開発事業団技術研究本部マイクロスペースシステム研究室。JAXA研究開発本部宇宙実証研究共同センター、宇宙研ASTRO-Gプロジェクト、宇宙科学プログラム・システムズエンジニアリング室を経て、2011年4月より現職。
Q: 宇宙開発の仕事に就きたいと思ったのはいつごろですか。
小学生のころは宇宙飛行士に憧れていましたが、中高生になると、宇宙は遠い世界に感じるようになりました。文明論や歴史学に興味が移り、高校では文系クラスに進みました。ところが3年生の5月、日本史の授業を受けているときに、「やはり、宇宙に関わる仕事に就きたい」との思いが強く湧き上がり、その日のうちに「理系に替わります」と先生に言いました。
そして東京工業大学へ進学し、衛星設計コンテストに参加しました。それはとても興味深く、知的な刺激も多い活動でしたが、机上での設計にとどまるもので、ものづくりの面白さはありませんでした。私は、官庁か商社に就職して、社会のシステムやインフラを築くといった形で新しいものをつくり出す仕事に携わりたいと思うようになりました。
Q: 再び宇宙を志したきっかけは何ですか。
修士課程1年生だった1998年、日米の学生が参加して共同の衛星プロジェクトを検討するシンポジウムがハワイで開かれました。その席上で突然、スタンフォード大学のボブ・トィッグス教授がジュース缶を手に持って、「これを衛星にして打ち上げる」と言いだしました。設計しかやったことのない学生が、いきなり衛星などつくれるわけがない、と思ったのですが、トィッグス教授は「You can do it!」と叫ぶんです。私たちはそれを"魔法の言葉"と呼んでいました。それでみんなの心に火が付いたのですが、やり始めてみたら"地獄"を見ることになりました(笑)。
Q: どのような生活だったのですか。
寝袋を大学に持ち込んで、家に帰るのは週にせいぜい2日という状況が半年間続きました。時々遊びたくなって遠出すると、チームの怖い後輩から、ものすごい回数のコールがありました。新幹線でコンピュータの回路図を描き起こし、駅に着くやFAXで大学に送るといったことも幾度となくありました。過酷な日々でしたが、みんな衛星づくりの面白さに取りつかれてしまったのでしょう。ふと気付くと、人生の充実した時間を共有した仲間の多くが、宇宙研に再び集まってきています。
Q: 衛星づくりの魅力とは?
自分たちが長い時間をかけて苦労してつくったものが打ち上げられる瞬間、言葉にできない感覚を味わいます。その後、衛星が宇宙という厳しい環境でミッションを遂行できたときには、大きな達成感が得られます。私は卒業後、宇宙開発事業団に就職し、自分たちで小型衛星を開発する部署に配属されました。2002年に打ち上げられた小型実証衛星「マイクロラブサット1号機」では、搭載コンピュータや姿勢制御系の設計と、衛星に組み込むソフトウェアを書きました。それは衛星の成否を握るものです。それまでは机上のシミュレーションでしか経験のなかった宇宙での姿勢制御が実際にうまくいった瞬間の感動は、今でも鮮やかに覚えています。一緒に担当した後輩と固い握手を交わしました。
Q: 現在所属している宇宙科学プログラム・オフィスは、どのような役割を担う部署ですか。
宇宙研のプロジェクト全体を横断的に支援するために、今年4月にできた新しい部署です。各プロジェクトが成功に向けて集中できる環境を築くために、どのような支援が有効か、具体策を模索しているところです。いずれ、宇宙研のプロジェクトそのものにも最初から最後まで携わってみたいですね。宇宙研は自由なところで、びっくりするようなミッションのアイデアがたくさんあります。「正気なの?」と思うアイデアを出す人もいます(笑)。
Q: そんな人から、「You can do it!」と言われたら?
やるしかないですね。自分でも新しいアイデアを温めていて、野心的な人たちと検討を進めています。
私たちが学生時代に始めた取り組みは「カンサット」と呼ばれ、打上げ高度は約4kmで宇宙までは行きません。その後、本当に宇宙まで打ち上げる一辺10cmの立方体の衛星「キューブサット」をつくる活動も始まりました。現在では、さまざまな大学や高専・高校の学生が「カンサット」や「キューブサット」に取り組んでいます。宇宙への敷居は低くなり、かなり身近な世界になりました。「自分たちも宇宙へ挑戦したい」と若い人たちに刺激を与え、多くの人たちを元気づける。そんな皆さんを興奮に巻き込むプロジェクトを、ぜひ宇宙研で実現したいと思います。