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ISASコラム

宇宙・夢・人

小型衛星の活躍の場を広げたい

(ISASニュース 2011年3月 No.360掲載)
 
宇宙探査工学研究系 准教授 福田 盛介
ふくだ・せいすけ。1972年、京都府生まれ。博士(工学)。2000年、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。同年、宇宙科学研究所助手。2009年より現職。「れいめい」やSPRINTシリーズなど小型衛星のシステムを担当。専門はマイクロ波リモートセンシングやレーダ信号処理。
Q: 子どものころ、どんなことに興味がありましたか。
個別のものよりも、“全体的なもの”が好きでした。子どもの目から“全体的”に見えたのが、航空機や人工衛星、ロケットでした。たくさんの要素が調和して全体として機能しているものに興味があったのです。
何をやるにしろ、自分の武器となる技術が必要です。大学では電子工学を専攻し、大学院では宇宙研の研究室でマイクロ波リモートセンシングやレーダについて学びました。人工衛星の開発に携わるようになったのは、宇宙研に助手として就職してからです。「れいめい」のプロジェクトに参加しました。
Q: 2005年に打ち上げられた小型衛星ですね。
「れいめい」は、宇宙研のスタッフや学生が中心となって小型衛星を開発することで、若手技術者・科学者を育成することが目的の一つでした。私は搭載計算機や地上管制系、システムの取りまとめなどを担当しました。通常の衛星開発と異なり、不具合やトラブルにもすべて自分たちで対応するしかありません。苦労しましたが、全体を知りたい私には、システム全般を見渡しやすい小型衛星が性に合っていたと思います。
現在は、SPRINTという小型衛星シリーズを開発しています。かつて宇宙研では、毎年のように衛星を打ち上げていました。しかし近年、衛星の規模が大きくなるとともに1機の開発期間が長くなり、打上げ頻度が低くなっています。ある研究者が宇宙で観測や実験をしたいと思っても、機会が少なく待ち時間が長い状況です。それでは人も技術も育ちにくい。また、頻度が低くコストが大きいと保守的になりがちで、新しいアイデアを試すことが難しくなっています。そこで、早く、安く、何度も打ち上げることのできる小型衛星シリーズを開発することになったのです。新しい人たちが挑戦することで、宇宙科学の裾野が広がると思います。
Q: それをどのようにして実現するのですか。
基本的な衛星機能を持つ標準バスを用意します。そして、観測や実験をしたい人たちが用意した独自の装置を標準バスに接続して、衛星をつくります。調整がうまくいけば、2年半で衛星を完成させることを目指しています。標準バスには柔軟性を持たせてセミオーダーメイドにします。車を買うとき、車体の色や装備をカタログから選びますよね。同じように、目的に合わせて太陽電池パネルの数などを選べるようにするのです。SPRINTシリーズは2013年度から約5年間で3機程度を打ち上げる予定です。
Q: どのような目的の衛星ですか。
1号機SPRINT-Aは極端紫外線という波長で金星や火星、木星の大気を観測します。2号機は地球周辺の磁気圏・プラズマを探査する衛星になる予定です。3号機はこれから全国の大学から提案を募集します。私もある提案グループの一員として、月面へのピンポイント着陸技術を実証するSLIMという小型探査機を検討しています。専門の画像処理やレーダが主役を担うミッションですので、検討にも力が入ります。
Q: 将来はどのようなプロジェクトを目指しますか。
現在は中・大型衛星で可能な観測や実験を、小型衛星でも実現しようという段階です。将来は小型衛星にしかできないプロジェクトに挑戦したいですね。例えば、百機もの小型衛星を編隊飛行させて大きな干渉計をつくるようなアイデアがあります。どうやってたくさんの小型衛星を調和させるのか、技術的にもとても面白い研究テーマです。
Q: 研究以外で興味を持っていることは?
いろいろな人が集まって調和して機能している組織や社会にも興味があります。人間観察が好きで、家族を見ていても面白いですね。小学生と幼稚園の子どもがいますが、兄妹げんかを始めると家族の調和が崩れます。しかし、子どもたちも、この場面でこういうことはやめようと、調和を乱さないように成長していきます。それを、どうやって学習していくのだろうと観察しています。
Q: 宇宙研という組織はどう見えますか。
とんがっている人が多くて、ずっと調和しない(笑)。だからうまく機能しているのかもしれません。SPRINTの開発チームも2013年度の打上げに向けて、チームを機能させていかなければいけません。システム担当として、気を引き締めて、だけど常に楽しく、頑張っていきたいと思います。