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ISASコラム

宇宙・夢・人

太陽を通して宇宙や自然を理解したい

(ISASニュース 2011年1月 No.358掲載)
 
宇宙科学共通基礎研究系 准教授 清水 敏文
しみず・としふみ。1966年大みそか、長野県生まれ。博士(理学)。名古屋大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、国立天文台助手・主任研究員を経て、2005年より現職。専門は太陽物理学。
Q: 子どものころから天文に興味があったのですか。
信州の自然豊かな環境で育ち、理科が好きでした。天文に強く興味を抱いたのは、小学校5年生のころ。理科の先生が、星や太陽の像を望遠鏡で見せてくれたのがきっかけです。そして自分でも、ガラス板を切り出して煤を付け、日食を観察したりしました。
中学校の夏休みの自由研究では、短期間に変化が分かる天体の観察を考え、太陽黒点の変化をスケッチ観察しました。その自由研究作品は長野県学生科学賞作品展覧会などに出展され表彰されました。
Q: 宇宙から太陽観測をする道に進んだきっかけは?
大学では遠い宇宙からの電波を観測する研究室で受信機の製作をしていました。あるとき、隣の研究室で先輩に「本当は太陽に興味がある」と相談したら、その話が東京大学で太陽を研究していた常田佐久さんに伝わり、「今、太陽観測衛星を開発している。興味があれば東京に来なさい」と言われました。
Q: 1991年に打ち上げられた「ようこう」ですね。
そうです。私が東京大学大学院へ進学した1990年当時、宇宙研で「ようこう」の総合試験が始まったところでした。私も参加して、朝から深夜までチェックアウト室でソフトウェアの作成をしながら試験データのチェックに没頭しました。
Q: 現在、太陽の何を解明しようとしているのですか。
太陽コロナを加熱し活動性を引き起こす仕組みを理解しようとしています。太陽はありふれた恒星の一つにすぎません。しかし私たちがその表面を詳しく観測できる唯一の恒星です。宇宙はさまざまな高温プラズマで満ちていますが、その加熱の仕組みは大きな謎です。太陽コロナも高温プラズマの一種です。太陽の熱源は中心部で起きている核融合反応。太陽表面の温度は約6000度で、熱法則だと外側に行くほど温度は低くなるはず。しかし上空にあるコロナは数百万度もあるのです。太陽表面の対流が持つエネルギーの一部が、磁場を介して非熱的に彩層やコロナに注入されると考えられています。しかし、まだ非熱的な輸送・注入の仕組みが分かっていません。
磁場を介した仕組みなので、磁場を直接的に測定することが本質的に重要です。太陽表面の磁場は、可視光域の吸収線の光の性質を分析することで、測ることができます。その目的で、私たちは口径50cmの可視光望遠鏡を開発することに挑戦しました。実は、似たような望遠鏡の開発を1980年代にNASAが検討したのですが、技術的に難しく断念しました。可視光望遠鏡の開発には、何人もの人たちが研究生活のすべてをささげました。私もその一人です。そして2006年9月、可視光望遠鏡を搭載した太陽観測衛星「ひので」が打ち上げられました。
Q: 観測成果は?
世界で初めて撮影された鮮明な太陽表面、そしてその上空の彩層は、思いもよらなかったダイナミックな活動に満ちていました。今まで、そちらに目が奪われ研究をしていましたが、X線観測も併せてコロナ加熱と磁場の関係を探る研究にも取り掛かり始めました。さらに、「ひので」の次の衛星の検討も進めています。
Q: 次は何を目指すのですか。
:二つの案があります。一つは、黄道面から脱出し、地球からは見えにくい太陽の極地方を観測する案。もう一つは、地球周回軌道から高解像度で偏光や分光観測をする案。「ひので」で見えてきたダイナミックな太陽大気を物理的に理解するのに強力な手段です。私たちが検討を進めている次期太陽観測衛星には、海外からも大きな期待が寄せられています。日本は宇宙からの太陽研究で、世界の第一線を走っているのです。
Q: 次期太陽観測衛星の打上げ予定は?
:約10年以内です。望遠鏡や衛星の開発は本当に大変で、体力勝負。昨年から週3回ジムに通い、体力を増強中です(笑)。宇宙科学は、知的好奇心の最大の原動力です。衛星計画により、新しい観測技術が開発され、それが思いもよらない物理現象の発見をもたらします。また近年、太陽活動の遅延や低調さが観測データに見られ、太陽をより深く理解するチャンスです。太陽研究の発展がなければ、宇宙や自然の理解も進みません。