TOP > レポート＆コラム > ISASコラム > 宇宙・夢・人 > 第75回：誰もが宇宙に行ける時代へ

（ISASニュース　2010年12月　No.357掲載）   いわた・なおこ。1982年、大阪府生まれ。名古屋大学工学部物理工学科卒業。九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻修了。2007年、JAXA宇宙科学研究本部 探査機システム研究開発グループ 開発員。2008年より現職。X線天文衛星ASTRO-Hの熱設計、先進型ヒートパイプの技術開発などを行う。 Q： JAXAに入って4年目。現在は、どのような仕事をしているのですか。 2014年打上げ予定のX線天文衛星ASTRO-Hの熱設計や、新しいヒートパイプの研究開発を行っています。ASTRO-Hは、宇宙空間で高温や低温など厳しい温度変化にさらされます。熱の変化によって衛星が膨張や収縮を起こしてしまうと、精度の良い観測ができません。そこで、ASTRO-Hの各機器の温度がそれぞれ正常に動作する範囲に収まるように材料を選定したり、機器の配置を設計したりすることなどが、私たちの仕事です。ヒートパイプは、40年以上前から宇宙で使われている熱制御材ですが、以前のものとは違うまったく新しいヒートパイプの研究開発を行っています。高度な機能を持つ熱制御材を開発することで、より柔軟な熱制御を可能にしたいと考えています。 Q： 2種類の仕事があるのですね。 はい。数年後に宇宙に打ち上げることが決まっている衛星の開発と、将来を見据えた技術開発です。上司は、熱の技術者として成長するためにはその両方をやるべきだという考えですし、自分もそう思っています。異なった2種類の仕事が同時にできるのは、大きな魅力です。 Q： 熱技術者としての苦労は？ ASTRO-Hの熱設計の主担当になってはいるのですが、技術者としてはまだまだですね。設計が正しいかどうか、要求を満たすにはどういう設計をすべきかなど、さまざまな問い合わせが来ます。一つ一つに対して適切な技術的な判断を限られた時間でしなければいけないのですが、それが難しい。求められることに答えられない自分がもどかしく、早く成長したいと、いつも思っています。 Q： 子どものころの将来の夢は？ 小学校高学年のときから、ずっと宇宙飛行士です。実は、友達が「宇宙飛行士になりたい」と言うのを聞くまで、そういう職業があることすら知りませんでした。でも、毛利衛さんや向井千秋さんの存在を知り、宇宙飛行士以外の職業は考えられなくなりました。しかし、宇宙飛行士になるにはどうしたらいいのか分かりません。しかも困ったことに、数学や物理など理系の教科は苦手で、得意なのは国語でした。今でも数学や物理には苦労しています。宇宙研にもそういう人がいるんですよ（笑）。 Q： 夢の実現のため、どのような進路を選んだのですか。 NASAの宇宙飛行士の経歴を調べると軍のパイロットが多かったので、自衛隊のパイロットになろうと思ったこともありました。スペースシャトルの操縦をしたり、宇宙ステーションを組み立てる宇宙飛行士になりたかったので、工学部へ進学しました。本当は航空宇宙工学科に行きたかったのですが、学力が足りず、物理工学科へ。転科すればいいと軽く考えていたのです。入学後最初のガイダンスで、「転科するにはどうしたらいいですか」と質問して、教官にあきれられました。結局、転科はできませんでしたが、航空宇宙工学科の授業に出て勉強していました。 Q： 宇宙飛行士になるためにJAXAへ？ いいえ、少し違います。大学時代にインドを旅したとき、列車で一緒になった人に「どんな勉強をしているの。何になりたいの」と聞かれました。「宇宙飛行士になりたい」と答えると、「宇宙に行くという夢が持てる日本人がうらやましい。私たちにとって宇宙に行くということは非現実的過ぎて、夢にすら持つことができない」と言われました。それをきっかけに、自分が宇宙に行きたいと思うだけでなく、誰もが宇宙に行くことができる宇宙船をつくりたい、と考え始めました。日本でそれを実現させるためにはJAXAに入るのがいいだろうと考えたのです。 Q： では、これからやりたいことは？ まずは、一人前の熱技術者になることです。いつかは、日本の有人宇宙船をつくりたい。大学のとき原子力関係の研究をしていたことから、原子力を推進力とする木星探査機や土星探査機も実現したいですね。ただし、JAXAの宇宙開発は国民の皆さんの税金によって行われているのですから、日本の社会に貢献できることをしなければいけない。それだけは忘れないようにしています。そして、宇宙飛行士の夢もまだ持ち続けています。もう大人なので夢は絞らないといけないのに、かなえたい夢がいろいろあって悩んでいます。

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