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ISASコラム

宇宙・夢・人

再び宇宙を廻る航海へ

(ISASニュース 2010年9月 No.354掲載)
 
はやぶさプロジェクトマネージャ 川口 淳一郎
かわぐち・じゅんいちろう。1955 年、青森県生まれ。工学博士。京都大学工学部機械工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了。1983 年、宇宙科学研究所に入所。2008 年より、宇宙航行システム研究系教授・研究主幹、月・惑星探査プログラムグループプログラムディレクタ。専門は姿勢・軌道制御工学。
Q: 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還には、世界中の人が注目しました。
自分たちのやっていることが多くの人に理解され、関心を持ってもらえるのは、何よりうれしいことです。小惑星イトカワまで行って表面のサンプルを採取して地球に戻ってくる――「はやぶさ」はとても分かりやすいミッションであることも、関心を集めた大きな理由でしょう。逆に、失敗すれば、それもはっきり分かってしまいます。大きなプレッシャーも感じていました。
Q: 月以外の天体に着陸し、地球に戻ってきた探査機は、「はやぶさ」が世界初です。その快挙を、NASAやESAではなく、日本が成し遂げました。
「はやぶさ」には、主な目的が5つありました。新しい推進機関であるイオンエンジンによる惑星間飛行、自律誘導航法、小惑星のサンプル採取、イオンエンジンと組み合わせた地球の重力を利用して加速する地球スイングバイ、サンプルを積んだカプセルを大気圏に再突入させて地球に持ち帰る。こんな初めてのことばかりのミッション、怖くてどこでもできないですよ。でも1995年、日本は「はやぶさ」ミッションにGOを出した。たとえハイリスクでも新しい技術に挑戦しなければいけないと、理解を示してくれる人たちがいたのです。
Q: 難しいミッションを成功させたポイントは?
幸運です。そして日本の技術力。ハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」や工学実験衛星「ひてん」で軌道制御技術を学び、火星探査機「のぞみ」で運用技術を学び、日本の惑星探査技術は着実にステップアップしてきました「はやぶさ」は、その技術を受け継いでいます。
Q: 7年の間には、探査機の姿勢を安定させるリアクションホイールの故障、燃料漏れ、通信途絶など、多くの困難に直面しました。もう駄目だ、と思った瞬間はありませんでしたか。
「はやぶさ」のミッションは「航海」なんです。「航(わたる)」には「戻る」という意味も込められています。地球を出発し、地球に戻ってこなければ、航海にはなりません。だから、あきらめたことは一度もありませんでした。
イオンエンジンを使ってイトカワに行っただけでも十分大きな成果です。しかし「はやぶさ」が戻ってこなかったら、日本ではサンプルリターン探査は二度とできないかもしれません。日本の惑星探査を次につなげていくためにも、航海を成し遂げなければならない。その思いが強かったですね。
Q: 「 はやぶさ」の成功が追い風となり、「はやぶさ2」が本格的に動きだしました。
「はやぶさ」は、傷ついてよろめきながら地球に戻ってきました。「はやぶさ2」には、この「運」を「実力」に変えて定着させる目標があるのです。きっと確実に帰還し、科学的にもより多くの成果を挙げることができるでしょう。
しかし、私はこの状況を手放しで喜んではいません。現在の日本の宇宙開発は閉塞感に満ちています。「はやぶさ」のようなハイリスクでチャレンジングなプロジェクトに、今の日本の状況でGOが出るか、大いに疑問です。この状況を変えるためにはどうすべきか、本気で考えなければいけない時期に来ていると思います。
Q: この道に進んだきっかけは?
NASAの「パイオニア」や「バイキング」です。「パイオニア」は、木星や土星に接近してその重力を使って軌道を変え、太陽系の外へと旅立っていきました。「バイキング」は火星に軟着陸し高度な表面探査をやってのけました。高校生、大学生だった私は、その精密な飛行に感動し、自分のやりたいことが見えてきました。私の興味はその天体まで探査機をいかに精密に飛ばすか、また帰還させるかです。それは、今でも変わっていません。
Q: 次はどのような探査機を飛ばしますか。
私たちは今、「IKAROS」を金星に向けて飛行させています。「IKAROS」には、その先の計画があります。「はやぶさ」で実証したイオンエンジンと、「IKAROS」で初めて成功させたソーラーセイルや薄膜太陽電池を組み合わせたソーラー電力セイル探査機として、木星とトロヤ群小惑星を探査することを目指しているのです。その計画はまだ片道飛行ですが、さらにその先、ソーラー電力セイルで再び宇宙を廻る航海をしたいものですね。