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ISASコラム

宇宙・夢・人

奇抜なアイデアを美しく実現しよう

(ISASニュース 2010年8月 No.353掲載)
 
宇宙情報・エネルギー工学研究系 准教授 吉光 徹雄
よしみつ・てつお。1970 年、広島県生まれ。博士(工学)。2000 年、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士後期課程修了。同年、宇宙科学研究所助手。2003 年、同助教授。専門はロボティクス。小惑星探査機「はやぶさ」搭載の超小型探査ロボット「ミネルバ」を開発。現在は、次世代の小天体探査ロボットや月探査ロボット、超小型衛星などについて研究を進めている。
Q: 小惑星探査機「はやぶさ」に搭載した超小型探査ロボット「ミネルバ」の開発を担当されましたが、「はやぶさ」の帰還はどこでご覧になりましたか。
大気球実験のため北海道大樹町に滞在していたので、インターネットやテレビで見ました。「はやぶさ」は、とても珍しいミッションです。突然通信が途絶してしまう場合は別として、ミッションの終了を決めるのはとても難しいものです。探査機の機能がだんだん失われていく中、まだいけるか、もう限界かを見極めなければいけません。それに対して「はやぶさ」の場合、大気圏突入でミッション終了、とはっきりしています。月周回衛星「かぐや」も月面に衝突してミッションを終えましたが、その様子を直接見た人はいません。「はやぶさ」は、私たちの目の前で燃え尽きていきました。これほどドラマチックな終わりを迎えたミッションはないでしょう。
Q: 「 ミネルバ」とは?
「ミネルバ」は直径12cm、高さ10cm、重さ591gの超小型の探査ロボットで、小惑星イトカワの表面を跳びはねながら、温度を測定し写真を撮影する計画でした。2005年11月12日に「はやぶさ」から放出されましたが、着陸に失敗してしまいました。そのときから、もう一度チャレンジしたいと思い続けてきました。現在、改良を加えた「ミネルバ2」を「はやぶさ」に続く小惑星探査ミッションに搭載することを提案しています。
Q: 跳びはねて移動するというのは、面白いアイデアですね。
変わった移動メカニズムを考えるのが好きなんです。火星や月のように固体の表面を持つもの、氷に覆われているもの、大気があるものと、太陽系にはさまざまな天体があり、それぞれに適した移動手段があるはずです。ほかの人とは違うアプローチで、オリジナリティの高い探査ロボットを提案したいと、常に思っています。
地球には固体の表面も、氷に覆われた場所も、大気もあります。太陽系の天体の環境がそろっているのです。先人たちは、地球上の多様な環境に応じてさまざまな移動手段を考え、実現してきました。その中にヒントがあります。
しかし、小天体だけは例外です。小天体の重力はとても小さく、そうした環境は地球上にありません。重力の小さな天体での移動は、人類にとって初めての経験です。ぜひ「ミネルバ2」で実現したいと思っています。
Q: 小惑星以外の天体をターゲットとした探査ロボットの構想はありますか。
検討中の小型月探査技術実験機(SLIM)に、1kgくらいの小型探査ロボットを搭載することを計画しています。それは、膨らむロボットです。探査機から放出されると、まずエアバッグが膨らみ、着陸時の衝撃を吸収します。無事着陸すると、車輪が大きく膨らみます。SLIMと呼ばれているように、このミッションの特徴は「小型」です。しかし、小さいと移動には不利です。そこで、車輪を大きく膨らませることを考えたのです。
Q: いろいろな探査ロボットのアイデアをお持ちのようですね。
はい、頭の中にはいくつもあります。例えば、二つ折りの携帯電話型の探査ロボット。開いたり閉じたりするときの反動を使って移動します。カメラも通信装置も付いているので、宇宙環境に耐えられることが確認できれば、携帯電話をそのまま持っていってもいいかもしれません。
Q: どういう子どもでしたか。
車が大好きでした。走っている車の名前をすべて言えたそうです。車好きは大人になっても変わらず、大学時代は車の整備ばかりしていました。今でも車検は自分でやります。
理科や数学、そしてものづくりが好きだったので、大学は迷わず工学部を選びました。大学院時代は、宇宙研で小天体表面を自律的に探査するロボットシステムを研究。「ミネルバ」のアイデアは、その中で出てきたものです。宇宙研の研究室を選んだのは、宇宙に興味を持っていたこともありますが、実は都心と比べて駐車場代が安かったからなんです(笑)。
Q: 仕事をする上でのモットーはありますか。
「美しくつくる」。宇宙に持っていくフライト品はきれいにつくって当たり前ですが、たとえ実験用の試作品でもガムテープをべたべた貼っているのは許せません。汚くつくった装置がきちんと動くはずはありませんから。私はきれい好きではないので、部屋は散らかっています。しかし、装置づくりは別。どんなに手間がかかっても、装置はきれいにつくり上げます。そこだけは譲れません。