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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙科学を楽しむ

(ISASニュース 2010年4月 No.349掲載)
 
宇宙科学研究所 副所長 宇宙輸送工学研究系 教授 藤井孝藏
ふじい・こうぞう。1951年、山梨県生まれ。工学博士。1980年、東京大学大学院博士課程修了。NASAエイムズ研究所NRC研究員などを経て、1989年、宇宙科学研究所助教授、1997年、同教授。宇宙科学研究本部研究総主幹、企画連携総括などを経て、組織変更により2010年4月より現職。専門は航空宇宙工学
Q: 4月から、JAXA「宇宙科学研究所」となりました。副所長として、これからの宇宙研は何を目指しますか
優れた研究成果を挙げるには、皆さんが心地よく仕事ができる場であることが大切ですよね。まずは、少しずつでもそれに向けた改善を図りたいと思います。次に具体的な話ですが、宇宙研は大学や他研究機関の研究者とボトムアップ的に物事を進めるという、海外にはない特徴を持つ組織です。このやり方では、どうしても既存の分野が優位になりますが、一方で、新しい分野を開拓したり、取り込んだりするのが学術の大切な姿です。新しい連携の仕組みを導入することで、宇宙科学に携わっていなかった異分野の優れた研究者を引き込めればと思っています。
Q: どのような新展開が考えられますか。
私自身が取り組んでいることで言えば、「多目的最適化」や「設計探査」と呼ばれる情報技術の導入があります。その分野のトップの人たちと連携すれば、より効率的な宇宙機開発が、また新しいアイデアの衛星や探査機を設計することも期待できます。地上ではすでに企業も使っている技術です。
Q: どのような衛星や探査機を生み出せそうですか。
例えば、私たちは火星航空機探査の実現を目指してワーキンググループ活動を始めました。5年ほど前に研究室での文献調査から始めて、やっとここまで来ました。衛星はせいぜい高度数百km。着陸機や探査車は限られた範囲しか探査できません。高度数十m〜数kmを飛行する飛行機ならば、広範囲を詳細に探査できます。大気が希薄な火星で飛行機を飛ばすのはとても難しいのですが、何とか実現にこぎ着けたいと思っています。私の定年後はるか先でしょうが、さらにその先をにらんで、研究室の学生たちと羽ばたき飛行機の研究も始めています。空中にホバリングして観測できるからです。羽ばたき翼の運動は複雑で、設計ではたくさんの要素を検討しなければなりません。種々の運動の周期や振動など組み合わせは膨大で、すべてを検討するのは不可能です。限られたデータから最適解を探す多目的最適設計技術や、運動と性能との因果関係を明らかにする設計探査技術は、これに限らずその利用が大いに期待されます。
Q: 子どものころから飛行機に興味があったのですか。
飛行機乗り、発明家、プロ野球選手になりたいなどと漫然と思っていました。ばらばらですね。でも、自分のアイデアを生かしたかったのでしょう。学部を出て某重工メーカーに就職するはずでしたが、いつの間にか研究者の道に入っていました。数値シミュレーションに携わってきて、学生時代を過ごした宇宙研に戻ってからも、スパコンを自由に使わせていただき、プロジェクトサポートをしながら、好きに?研究をやっていました。どうして今こんな責任ある立場にいるのか、よくわかりませんが、好き勝手やらせていただいた恩返しのつもりで日々を過ごしています。
Q: スパコンを使った計算科学に進んだきっかけは?
:職がなく困っていたポスドク時代、幸いにも米国の招きでNASAエイムズ研究所に滞在する機会を得ました。そこで世界最初の汎用スパコンに出合い、航空宇宙のスパコン利用分野(計算科学)を立ち上げた人たちとも一緒に仕事ができました。分野が立ち上がる時期に適切な場所にいられたことは、幸運としかいえません。
Q: 何かアドバイスされたことはありますか。
研究もですが、「難しい顔をするな! 廊下を走るな!」と(笑)。自分の論文でないのに、1日かけて一緒に考えてくれる方もいました。アドバイスというより、実体験が大変役に立っています。
Q: そこにおられた方々は天才なのですね。
普通の人ばかりだと思います。なぜ、素晴らしい仕事ができたのか。それが分かれば、私ももっと優秀な研究者になれていたでしょうね。「走るな!」が意味するように、優れた研究成果を生み出すには、やはり時間や心のゆとりが不可欠です。「事業仕分け」ではありませんが、近年、「無駄撲滅」という名のもとに宇宙研でも「ゆとり」が奪われつつあります。「ゆとり」をつくり出し、宇宙研が「ここで仕事をしたい」と思われる場所であり続けるよう微力を尽くします。それがあって初めて、異分野との連携も可能になりますので。私も一研究者として新しいことに挑む「ゆとり」をいただきたいですね。
Q: ところで、副所長は“冬眠”するそうですね。
白銀の世界は私にとって第一優先。「それをやめろと言われたら転職します」と所長に宣言しています(笑)。