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ISASコラム

宇宙・夢・人

Rocket Girls 奮闘中

(ISASニュース 2008年8月 No.329掲載)
 
熱グループ 開発員 福吉芙由子
ふくよし・ふゆこ。
1980年、東京都生まれ。工学修士。2006年、武蔵工業大学大学院工学研究科機械システム工学専攻修士課程修了。同年、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部技術開発部探査機機器開発グループ開発員。2008年より現職、宇宙科学技術センターミッション機器系グループ併任。ASTRO-Gや小型科学衛星のプロジェクトに参加し、衛星の熱設計や熱制御デバイスの要素試験を担当。
Q: 「Rocket Girls」の一人として『ISASニュース』2007年11月号の表紙を飾っています。
JAXAに入って2年目、角田宇宙センターで行われた再使用ロケット実験機(RVT)のターボポンプ性能試験のときに撮影した写真です。作業着にヘルメット、皮手袋、安全靴、手にはスパナ。何枚か撮って稲谷芳文先生に送ったら、「女には見えん」とダメ出し。髪を横に結び直し、これ以上できないというくらいの笑顔で撮ってもらいました。
Q: RVTの試験では、どういう仕事を?
RVTの試験にはJAXAに入った1年目から参加させてもらっていますが、最初は何をしているのか、よく分かりませんでした。初めて製作した配管が点火系のとても重要な部分だったことを後で知り、怖くなったくらいです。燃焼試験では、「このモニタの前に座って、何度以上になったら“エマスト”(緊急停止の意)と言え」といきなり指示されたことも。間違って“エマスト”と言ってしまったら、今までの準備が台無しになる。しかし、重要な問題を見逃してしまったら、取り返しのつかないことになる。最初は数値の意味も分からないまま、とにかくドキドキしながら画面を見つめていました。
Q: 現場は、男性、しかも大先輩たちばかりですね。
はい。でも気になりません。大学院の研究室でも女性は私一人でしたから。父親と同年齢の方もいますが、皆さんとても親切に教えてくださいます。尊敬できる方が多いですよ。
 私のような新人にも現場で実物に触れる機会を頂けるのは、とてもありがたいと思っています。最初は、皆さんの足を引っ張らないように、とにかく毎日元気でいることだけを考えていました。現場でしか覚えられないことは必死に覚え、言われたことは必死にやり、少しでも役に立とうと一生懸命でした。目の前のことだけで、周りはまったく見えていません。でも、皆さんは見ていたんですね(笑)。試験終了後、いろいろな人が「楽しそうにやっていたね」と声を掛けてくださいました。
Q: なぜこの世界に?
子どものころから宇宙に対してあこがれがあり、探査機から送られてきた木星の画像などを見てワクワクしていました。家庭科と技術の選択では技術を選び、国語と英語はまったく駄目で、理科だけは少し分かる、そんな子でした。物をつくることが好きだったので、大学は工学部へ。ロケットと人工衛星の区別もついていませんでしたが、工学部には宇宙航空分野があり宇宙につながっていることは何となく分かっていましたから。
Q: そしてJAXAへ。
武蔵工業大学からJAXAに入った人が少ないことは、知っていました。でも、駄目だと決め付けてあきらめたくはなかった。面接では、大学院でやっていた高分子材料の帯電についてひたすら話しました。どんな話題もそこに結び付けて、これからの宇宙開発で必ず役に立つと。後から聞いたのですが、出身大学よりも、本当にやりたいという熱意が伝わるかどうかの方が、選考には重要だと。どの大学で学んでいても、宇宙への夢をあきらめる必要はないと思います。
Q: JAXA3年目。主にどのような仕事をされているのですか。
人工衛星の熱設計を行っています。温度環境の厳しい宇宙で衛星内部の機器の温度がどう変化するかを予測し、許容温度の範囲に収めるには機器をどう配置したらよいか、衛星表面をどの材料にしたらよいかなどを考えます。ソーラーシミュレーターという装置を使って新しい材料に太陽光を模擬したランプを当て、何度まで耐えられるか、特性の変化などを調べる試験も行っています。
Q: 熱設計の苦労は?
熱設計は衛星に限らず、何にでも関係してくる非常に重要な仕事です。衛星の場合、機器配置が決まった後でないと、最終的な解析・設計はできません。衛星開発のスケジュールが遅れるのは常ですが、最後にしわ寄せがくるのが熱設計。それなのに、急いでやれ!と言われるんです。
Q: RVTの試験には、今年も参加するのですか。
秋から冬にかけて、角田と能代多目的実験場に行きます。今年で3回目。RVTの推進系は、液体酸素・液体水素という極低温流体を使用しながら、エンジンは高温で燃焼するので、断熱や耐熱を含め熱的な課題もたくさんあります。次の試験でもこのような課題を改善できるよう、多くのことを学んでいきたいです。私は、RVTが飛んでいる姿をまだ見たことがないんです。ぜひ見たいですね。それが、当面の夢かな。