宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 宇宙・夢・人 > 第48回:「なるほど!」と言い続けたい

ISASコラム

宇宙・夢・人

干渉計で人が見たことのないものを見る

(ISASニュース 2008年7月 No.328掲載)
 
宇宙科学共通基礎研究系 准教授村田泰宏
むらた・やすひろ。
1963 年、埼玉県生まれ。1991 年、東京大学大学院理学系研究科博士課程天文学専攻修了。理学博士。国立天文台野辺山宇宙電波観測所を経て、1993年、宇宙科学研究所助手、2005 年より現職。次世代電波天文衛星ASTRO-G プロジェクトに携わっている。
Q: 2012年に打上げ予定の次世代電波天文衛星ASTRO-Gでは、ハッブル宇宙望遠鏡の2000倍の分解能を実現するそうですね。
ASTRO-Gと地上の望遠鏡を干渉計という方法で組み合わせることで、1度の1億分の1の角度を見分けることが可能になります。あらゆる望遠鏡の中で断トツに優れた分解能です。干渉計は複数のアンテナを組み合わせて一つの望遠鏡をつくる観測方法です。宇宙に打ち上げたASTRO-Gと地上の望遠鏡を組み合わせて地球直径の3 倍に相当する電波望遠鏡にすることで、高い分解能を実現できるのです。ただし干渉計の原理は難しく、私も学生のころはよく分かりませんでした。干渉計の原理を知りたい、干渉計で観測をしてみたいと思い、大学院のときに電波天文学を選びました。学生のころから現在に至るまで、人が見ることができないものを見たい、というのが私の研究のモチベーションです。干渉計を用いれば、ほかの方法では実現できない高い分解能で観測ができる可能性があります。
Q: 国立天文台の野辺山宇宙電波観測所で、干渉計を使った研究に参加されたそうですね。
1980 年代後半、ちょうどミリ波干渉計という装置が動き始めたころで、星の形成領域などを観測しました。実はASTRO-Gの前身である電波天文衛星「はるか」は、野辺山の研究グループがISASと協力して始めた計画です。現在、南米チリにALMAと呼ばれる大型ミリ波サブミリ波干渉計が、日米欧の国際協力で建設されています。このような干渉計を世界に先駆けて提案したのも、野辺山の研究グループです。
Q: 当時の野辺山は、どのような雰囲気だったのですか。
とにかく言いたいことを言ってしまう人が多かったですね(笑)。言うだけでなく行動力のある人たちが集まっていました。私は学位を取った後も1年間野辺山で研究を続け、その後1993年にISASに入り、「はるか」の計画に参加しました。私の研究の基本は、干渉計で人が見たことのないものを見ること。電波天文衛星と地上の望遠鏡を結んで干渉計にする世界初のプロジェクトは、とても魅力的でした。
Q: 「 はるか」を受け継ぐASTRO-Gでは、どのような現象が見えてきそうですか。
銀河中心にある巨大ブラックホールの近くを見ることができます。「はるか」では巨大ブラックホール本体の直径の数百倍の領域を見ることができました。理論では、ブラックホールのまわりには、本体の直径の10〜100 倍の大きさを持つガス円盤があると考えられています。ASTRO-Gでは、直径の10倍くらいの領域が見えてきます。ブラックホールのこれほど近くの領域を直接見ることができる観測手段は、これまでありませんでした。理論通りに円盤が見えても見えなくても、大きな成果になります。まさに人が見ることができなかったものを見るのです。
Q: ASTRO-Gの次は、さらに分解能の良い干渉計を目指すのですか。
分解能もそうですが、やはり感度を上げたいですね。感度はアンテナの面積によります。ASTRO-Gのアンテナは直径約10 mと小さいので、巨大ブラックホールを持った銀河など、とても強い電波を出す天体しか見ることができません。
例えば、電波天文衛星100基程度で干渉計を組んで、惑星軌道くらいの大きさの電波望遠鏡をつくります。そして、観測周波数を1桁高くすると、ASTRO-Gの10万倍の分解能になります。このくらいだと、太陽から約4光年離れた隣の星であるアルファ・ケンタウリ星で1kmほどの分解能になるので、星の表面も見えるくらいになります。ただし、1個1個の衛星のアンテナの大きさも大きくしなければならず、単純に計算すると、星を見るための感度にするには、月の軌道よりも一回り小さいくらいの範囲の電波を集められるアンテナが必要ということになってしまいます。
Q: このコーナーで紹介した夢の中で、最も壮大かもしれません。
単なる計算なので、現実を見ると、どうかしていると言われますよ(笑)。今は無理かもしれないが、将来もしかすると革命的な技術発展があって、可能になるかもしれない。干渉計は、それくらい大風呂敷を広げることができる面白い観測方法だと思っています。