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ISASコラム

宇宙・夢・人

衛星データ処理システムのエキスパート

(ISASニュース 2007年11月 No.320掲載)
 
システム開発部 探査機システム開発グループ 開発員 馬場 肇
ばば・はじめ。
1971年、大阪府生まれ。理学博士。京都大学大学院理学研究科博士後期課程(物理学・宇宙物理学専攻)単位取得退学。国立天文台教務補佐員を経て、2002年、宇宙科学研究所宇宙科学企画情報解析センター研究機関研究員。任期満了後、早稲田大学助手、茨城大学講師を経て、2007年より現職。専門は、恒星物理学、データベース天文学、コンピュータネットワーク/ソフトウェアの開発運用。現在は、科学衛星運用・データ処理システムのソフトウェア開発にかかわる業務全般を担当。
Q: JAXAには、この4月に入られたそうですね。
はい。経験者採用枠の「科学衛星運用・データ処理システムのソフトウェア開発」という職種で採用されました。JAXAは最近では、新卒30人前後、経験者10人前後を毎年採用しており、そのうち数人が宇宙科学研究本部に配属になるようです。
Q: なぜ宇宙研に?
大学・大学院での専門は恒星物理学で、明るさが大きく変化する激変星の研究をしていました。卒業後は、国立天文台、宇宙研、二つの大学そしてJAXAと、6年間で5回、職場が変わっています。宇宙研時代には、赤外線天文衛星「あかり」のデータ処理やデータ公開システム、大学ではコンピュータを用いた学習システムの構築にかかわっていました。どれも仕事は面白かったのですが、任期制のポジションでした。もっと腰を落ち着けて、5年、10年といった長い時間スケールの仕事をしたいと思っていたところに、JAXAで経験者採用があることを知ったのです。
Q: 大学での専門とは違う道を選ばれましたね。
大学院入試に失敗して浪人していたとき、ちょうどはやりだしたインターネットで毎日遊んでいて、コンピュータにはまってしまったのです。それまでコンピュータはむしろ苦手でしたが、フリーソフトを書くようになったら、これが面白い。大学院を出るころには、自分はサイエンティストよりもエンジニア向きだと悟っていました。
Q: 採用面接ではどんなアピールをしたのですか。
「JAXAのWebサイトのトップページ右上に検索窓がありますが、あれはNamazuという日本で最もよく使われている全文検索システムです。私が開発メンバーの一人で、書籍も執筆しました!」。そういう話をしたら、インパクトがあったみたいです。大学院生のとき、ある方が開発した検索システムの存在を知って、メールのやりとりをしながら一緒に改良していったのが、現在のNamazuです。でも、こんなにたくさんの人に使われるようになるとは、思わなかったですね。
Q: 現在はどのような仕事を?
科学衛星の設計、開発、試験、運用からデータ処理、そしてデータの公開まで、一連のデータの流れにかかわるソフトウェアや計算機システムの開発をしています。JAXAが2005年に発表した「長期ビジョン」の中に「宇宙科学のトップ・サイエンスセンター」という目標があります。その実現のためには、技術基盤としてのデータ処理システムの機能強化が不可欠だと思うので、やりがいがあります。
Q: 具体的には?
例えば、運用のための地上系システムは、衛星管制装置や共通QL装置などの計算機ネットワーク、コマンド計画・テレメトリ診断系のISACS、テレメトリデータベースのSIRIUS、工学データベースのEDISON、科学データベースのDARTSなどで構成されています。それとは別に、衛星の運用計画立案やデータ処理は、プロジェクトごとにそれぞれのやり方で行われています。データの流れという観点から見ると、とても複雑になっているのです。しかし、衛星も大きくなり数も増えた今、運用からデータ処理、公開までスムーズに流れていくようにするために、既存システム間の関係を整理して、より効率的で信頼性の高いシステムに変えていく必要があります。
まずは現場を見て、現状の問題点を知ることから始めています。宇宙科学研究本部の各衛星の運用はもちろん、宇宙利用推進本部における実用衛星の運用・データ処理のやり方を学んだり、海外や民間の衛星での現場も参考にしたいと思っています。その上で、これまでのやり方も踏まえつつ、宇宙科学研究本部の10年以上先を見据えて、一連のシステムを理想の姿にもっていきたいですね 。
Q: 趣味は?
大学のときは居合道をやっていました。日本刀を抜いてから納めるまでの形の正確さなどを競う武道です。襲いかかってくる仮想敵を斬る稽古もあります。宇宙研の廊下を歩きながら、私が腕を振り回していたら、それは仮想敵を斬っているとき。気を付けてくださいね。