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ISASコラム

宇宙・夢・人

橋渡しとなって

(ISASニュース 2007年10月 No.319掲載)
 
科学推進部 庶務課 広報係長 強瀬 訓尚
こわせ・のりひさ。
1967年、埼玉県生まれ。
1994年から宇宙科学研究所の庶務課、主計課、契約課、宇宙科学研究本部の財務・マネジメント課などに所属。1995年9月、放送大学卒業。2007年1月から現職。
Q: 今年の1月から広報係所属になったそうですね。
宇宙研の活動を一般の方々に広く知っていただくための広報活動をしています。報道機関に対して研究成果をプレスリリースする仕事が中心です。
Q: プレスリリースのご苦労は?
最初に手掛けたプレスリリースが、4月に発表した「太陽電池用『多結晶シリコン基板』の品質評価法の開発について」でした。フォトルミネッセンスという物理現象を利用した基礎研究の成果です。研究者から「この内容でプレスリリース出してね」と資料を渡されたときには、正直に言って、頭を抱えましたね。専門用語も多く、あまりにも難解で分かりませんでした。何度も研究者と話をして、文章も改訂を重ねて、ようやくプレスリリースにたどり着きました。
研究者が伝えたいことをいかに要約するかが大事であり、それが難しい。研究者の言葉を一般の人に分かりやすく、そして興味をもってもらえるようにしていく過程は、翻訳に近いですね。そのプレスリリースは、たくさんの新聞で取り上げていただき、企業から研究室への問い合わせも多かったそうです。そういう反響があると、苦労をした分、うれしいものです。
Q: 技術開発から科学衛星による科学的な成果まで、扱う内容は幅広いですね。
もともと、宇宙は嫌いではなかったんですよ。中学卒業の記念に屈折望遠鏡を買ってもらい、月や土星をよく見ていました。科学雑誌を定期購読して、相対性理論を扱った本も読みあさりました。
Q: では、子どものころの夢は天文学者?
そう書いたこともありますね。私は高校を出てすぐに就職し、働きながら放送大学で学びました。「自然の理解」という専攻で、宇宙地球科学を勉強しているとき、縁があって宇宙研に採用されたのです。うれしかったですね。
でも、今となっては大学で学んだ知識はほとんど忘れてしまいました。宇宙研で働いて13年になりますが、その大半を経理関係の部署で過ごし、そこでは宇宙に関する知識はほとんど必要ありませんでしたから。今回の広報係への異動は突然だったので、少し戸惑いつつも、もう一度勉強をやり直しているところです。
Q: 広報活動の難しさは?
例えば、「水金地火木土天海」という太陽系の惑星の並びは、みんなが知っている当たり前のこと、そう思っていました。でも、誰もが知っているわけではなかった。すでに宇宙に興味を持っている人だけでなく、宇宙のことをまったく知らない人たちに、どのように情報を発信していくべきかは難しいですね。知らない人を基準にしてすべてを説明すれば全員が満足する、というわけではない。“落としどころ”は、永遠の課題です。でも、自分がプレスリリースした記事がきっかけで今まで興味がなかった人が宇宙に目を向ける、そんな橋渡しができればいいですね。
Q: 子どもたちに対してはどうでしょうか。
今年の一般公開では山崎直子 宇宙飛行士の講演があり、たくさんの子どもたちが参加して盛況でした。宇宙飛行士にあこがれる子どもたちに、ぜひ「なぜ宇宙飛行士になりたいの?」と問い掛けてみたい。きっと、さまざまな答えが返ってくることでしょう。それでいいんです。私たちは、知識や常識を子どもたちに教えたがります。でも、それは子どもたちの見識を狭めてしまう危険性もある。子どもが本来持っている感性をつぶさないためには、何をどのように伝えるべきか、よく考えないといけない。伝えることの難しさを痛感しています。
Q: 今でも望遠鏡をのぞくことはありますか?
残念ながら、ないですね。実家で、ほこりをかぶっています。最近では、唯一の趣味は車かな。運転が好きです。運転席は快適だけど、助手席の人はちょっときつい、そんな車に乗って、時間さえあればドライブしています。車種は、内緒です……(笑)。