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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙の通信屋さん

(ISASニュース 2007年9月 No.318掲載)
 
システム開発探査機システムグループ 開発員 長江 朋子
ながえ・ともこ。
1979年、北海道生まれ。
2005年、北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻修了。同年、システム開発部 探査機システム開発グループに配属。深宇宙探査対応の地上局システムの開発、PLANET-Cの通信担当、臼田局衛星運用スケジュールづくりなどを行う。
Q: JAXAに入って3年目ですね。今、どのような仕事をしているのですか。
私は通信を専門として仕事をしています。現在は、臼田宇宙空間観測所に導入する新しい測距システムの開発・評価試験に携わっています。探査機の位置を知るために、地球と探査機の距離を測るシステムです。その測距データは探査機の軌道計算にも使われる重要なもので、短時間で精度のよい測距ができれば、軌道計算がより正確になり、探査機の運用も楽になります。
Q: 測距の難しさは、どんなところですか。
地球から電波で信号を送り、探査機で送り返されてくる信号を受信して遅延時間から距離を導き出します。しかし、はるか彼方の探査機から送り返されてくる信号は微弱で、しかも地球と探査機との長い道のりで大きな雑音が混ざり、精度が落ちたり、測距ができなくなってしまうのです。
探査機では地球から届いた信号を増幅して送り返すのですが、今までのシステムでは雑音が混ざったまま増幅するので、地球に届く信号には往復分の雑音が含まれます。新しいシステムでは、探査機で信号だけを取り出して増幅し、地球へ送り返します。ですから雑音が片道分になり、探査機がより遠くへ、例えば木星へ行っても精度よく測距を行うことができます。
この新システムは、2010年度に打上げ予定の金星気象衛星PLANET-Cから運用が開始されます。私はそのPLANET-Cプロジェクトにも携わっています。ですから、この新システムとPLANET-Cプロジェクトはとても親密なもので、責任感も感じていますし、私にとって大変想いが強いものです。
Q: 子どものころから宇宙が好きだったのですか。
プラネタリウムに行ったり、夜空を見上げて星座を見つけたりすることが好きでしたね。ただし、ものづくりにも関心があったので、大学では工学部へ進みました。学生時代も今も、人や何かに役立つものをつくることに興味があります。その中でも、無線通信はもっと人の役に立つはずだと思ったのです。例えば自動車でも、カーナビやETCなど無線通信を使った技術がどんどん発展していますよね。では、無線通信はこれからどんな分野で大きく発展するのか、自分はどの分野で無線通信を発展させていきたいのかと考えたときに、やはり子どものころから好きだった宇宙にひかれました。大学で研究室に進むときには、宇宙分野の研究ができるところを選びました。
Q: どのようなテーマを研究したのですか。
通信分野の研究室で、宇宙以外のテーマもあったのですが、私は宇宙太陽発電システムに関する研究を行いました。宇宙で太陽光発電した電力をマイクロ波に変換して地球へ送信します。そのマイクロ波を受ける地上アンテナの研究です。宇宙太陽発電衛星にはまだたくさんの課題がありますが、実用化できれば環境問題やエネルギー問題の解決に役立つ、人のためになる研究です。研究していてとても面白かったですね。だから、宇宙分野で通信の仕事がしたいと思い、JAXAを受けました。
Q: JAXAでの仕事はいかがですか。
予想以上に地道な作業が多いですね(笑)。でも、自分で回路図を描いたりケーブルをつないだり、実際にものに触れながらの開発の仕事はとても楽しいです。
Q: 最も印象的だったことは?
たくさんあるのですが、一つ挙げるとすると2006年9月の太陽観測衛星「ひので」の打上げです。私は衛星地上班として参加し、「ひので」からの電波を受信するための仕事をしました。たくさんの人たちが一つの目標に向かって一生懸命で、努力を惜しまない。その中に自分も加われたことが、とてもうれしかったですね。打上げに参加したのは「ひので」で3回目だったのですが、そのときには仕事が少し分かってきて、役に立てた、という充実感がありました。
Q: これからの夢を教えてください。
いろいろな技術が発展しても、通信がどこまで可能かで、探査機がどれだけ遠くへ行けるかが決まってしまいます。どんな要望にも応えられるように、将来を見据えて通信システムの開発を進めていきたいと思います。測距システムも、探査機から届くさらに微弱な信号をとらえられる余地があると思います。とにかく今は与えられた仕事をしっかりとやって、もっと皆さんの役に立っていきたいですね。