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ISASコラム

宇宙・夢・人

思考せよ!

(ISASニュース 2007年7月 No.316掲載)
 
高エネルギー天文学研究系助手 尾崎 正伸
おざき・まさのぶ。
1970年、東京都生まれ。
京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。1997年、宇宙科学研究所助手。専門はX線天文学。電子機器およびコンピュータシステムの設計と開発を得とし、「すざく」「はやぶさ」「ひので」などの検出器や共通系機器の開発に携わる。現在は、「すざく」のデータを科学解析向けに加工する業務とともに、データ解析、将来の衛星に向けた開発研究を行っている。
Q: いきなりですが、趣味は?
最近、スポーツ用自転車に乗っています。大学以来ですから十数年ぶり。自転車も進化しているんですね。軸受けと車輪の抵抗が小さく、タイヤも高い空気圧に耐えられる。だから、少しこぐだけでぐんぐん加速して、氷の上を滑るように進むんです。単純に気持ちいいのですが、そういうとき、つい物理屋の癖が出てしまいます。いちいち分析してしまうんですよ。良い自転車はペダルをこぐとこいだ分だけ加速し、こぐのをやめてもそのまま進みます。ブレーキをかけるとようやく速度が落ちる。これって慣性の法則なんですよね。すっかり自転車にはまってしまって、慣性の法則を実感しながら走っています。
Q: ほかにも、いろいろ考えていそうですね。
はい。今日の服は空気抵抗が大きいな、とかね。何かを見るたび、感じるたびに注意して観察し、これはなぜだろうと考えることが大事です。私の専門はX線天文学ですが、研究でも同じ。人工衛星が観測した天体のデータを手にしたとき、なぜこう見えるのか、なぜこう動くのか、背景にある原理を常に意識して、とことん考えなければいけません。そうすれば、何が自然で何が不自然かを見分けることができるものです。『レンズマン』という古典SFの中でよく出てくる「思考せよ!」というフレーズが好きですね。考えることを途中で放棄してしまいたくなることもありますが、データが足りないなど原理的に無理だというところまで、とことん考えることが重要です。
Q: なぜX線天文学の研究を?
子どものころからものをつくるのが大好きでした。大学院に進むときに、自分で装置をつくり、それを使って実験ができて、しかも私の頭でも理解できる内容、という条件で研究室を探していたら、X線天文学になったのです。足を踏み入れてみると、空の彼方の研究対象から来る光を見ることしかできず、直接温度計を挿し込んだり、プラズマを網ですくってくることもできない世界。とてもややこしいところに足を突っ込んでしまった……。
Q: 現在は主にどういう仕事、研究をされているのですか。
X線天文衛星「すざく」が観測したデータは、使いやすい形式に変換して整理した後、研究者に渡されます。そのためのシステムの維持や改良に関する仕事が多いですね。私も研究者としてデータを解析したいのですが、それに時間を取られ、本来の仕事がほとんどできていません。システムを滞りなく回すことは大事ですが、研究者にとってはやはり雑用。昔は研究者が下支えもこなすこの体制でうまく回っていたのでしょうが、組織も大きくなり、衛星もたくさん動いている今、体制を見直す時期かもしれません。そもそも、研究者が整理されたデータだけを見ていればよいかというと、それは違う。配布されるデータは、万人向けの無難な処理しかしていません。性能ぎりぎりのところを引き出そうとしたら、解析をする研究者自身が元データから見ていく必要があります。
Q: 「すざく」では、どんな観測をしているのですか
第1回の一般観測公募で採択されていた観測が、ようやく3月に行われました。観測したのは、IC443という超新星残骸です。超新星爆発のエネルギーによって原子が1億度もの高温に熱せられ、元素ごとに特有のX線を出します。実は、原子の温度には、運動で定義されるものと内部状態で定義されるものがあり、普通は後者の温度の方が低くなっています。ところが、「あすか」衛星の観測から、IC443では温度の高低が逆転しているらしいことが分かりました。そこで、精度も感度も高い「すざく」で観測し、本当に逆転しているのか、またその原因を明らかにしようとしています。さすが、「すざく」。きれいなデータを取ることができたので、解析が楽しみです。
Q: その先は?
「すざく」には自分で設計した装置が載っていないので、今は他人のふんどしで相撲をとっている状態です。装置を立案し、製作し、衛星を打ち上げ、データを取って解析するまで、全部にかかわりたい。これは本来当然のことですが、なかなかできないのが現状です。多くの研究者が当然のことをするためには、小さなプロジェクトを増やしていく必要があるのかもしれません。早く自分のふんどしで相撲をとりたいですね。