宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 宇宙・夢・人 > 第40回:夢はスペースシャトルから始まった

ISASコラム

宇宙・夢・人

夢はスペースシャトルから始まった

(ISASニュース 2007年4月 No.313掲載)
 
宇宙航行システム研究系助教授 澤井 秀次郎
さわい・しゅうじろう。
1966年、東京都生まれ。
1994年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程 修了。同年、宇宙科学研究所システム研究系助手。2003 年、同助教授、総合技術研究本部主任研究員を経て、2004 年より現職。科学衛星推進系やM-Vロケット第3段搭載 のサイドジェット装置の開発を行う。現在は、月探査計画の提案グループとして活動するとともに、気球を利用した無重力実験機の機体開発を担当。
Q: 宇宙にかかわる仕事に就こうと思ったきっかけは?
スペースシャトルが1981年に初めて打ち上げられたとき、その様子が日本でも生中継されました。しかし、家族は宇宙に興味がなく、夜中に私一人、みんなが寝静まった中でテレビを見つめていました。スペースシャトルの打上げを見て、多くの人は「スペースシャトルで宇宙に行きたい」と思ったでしょうが、私は「ああいうものを作りたい」と思ったのです。それがきっかけとなり、今、ここにいます。もし15歳のあの日、家族と一緒に寝ていたら、私は違う仕事をやっていたかもしれませんね。
Q: 宇宙研ではどういう研究を?
科学衛星や探査機に搭載されるエンジンの開発や、制御の研究が中心ですが、まったく違うこともやっているんです。その一つが、気球を使って無重力実験ができないか、ということ。高度40kmくらいまで上げた気球からカプセルを落とすと、自由落下するカプセルの中が無重力環境となって、無重力実験ができるのです。

でも、私は制御屋なので、ただ落とすだけでは面白くない。高度40kmというと空気は非常に薄いですが、それでもカプセルは空気抵抗を受けて減速したり、風を受けて揺れたりするため、本当の自由落下にはなりません。そこで、ロケットのような機体にカプセルを入れ、その中で実験を行うシステムを開発しました。気球から落下させた後、機体に取り付けたアクチュレータという小型エンジンで姿勢を制御して、カプセルが機体の内壁にぶつからずに浮かんでいるようにします。カプセルは空気抵抗などを直接受けることがないので、本当の自由落下になります。無重力状態の継続は1分ほどで、航空機を使った場合と同じですが、きれいな無重力状態を作れる点が売りです。宇宙ステーションを使えば長期間の無重力実験ができますが、“手軽に”という点では私たちの方が優れているでしょう。

昨年5月に初めての実験を行い、システムとしてうまく機能することを確認しています。今年5月、改良を加えた機体を使った実験を行います。それが成功すれば、一応の完成と考えています。
Q: なぜ、気球を使った無重力実験システムを作ろうと考えたのですか。
一言で言うと、面白いから。やっぱり、自分が面白いと感じることをやっていたいじゃないですか。しかも、このシステムは、その後の発展に期待が持てるから。30秒も自由落下すると、機体の下側は超音速の状態になります。そこに注目したのです。JAXAでも超音速の飛行機を開発していますが、そのためには、エンジンや材料、制御を超音速の状態で試験する必要があります。しかし、機体を地上から打ち上げて超音速状態にするのは、とても難しい。気球から落下させれば、手軽に超音速状態を作り出すことができるのです。
Q: スペースシャトルを作るという夢は実現しそうですか。
厳しい訓練をした宇宙飛行士にしか乗ることができないスペースシャトルよりも、今は、一般の人でも宇宙に行ける乗り心地の良い宇宙船を作りたいですね。私は、スペースプレーンがいいと考えています。スペースプレーン構想は以前からありますが、いまだ実現していない。何が難しいかというと、エンジンの開発なのです。エンジンや材料、制御を超音速状態で数多く実験できるようになれば、状況は変わりますよ。
Q: 話が、気球を使った無重力実験システムにつながりましたね。
そうなんですよ。ばらばらなことをやっているように思われてしまうのですが、自分の中では一定の法則があるのです。スペースプレーン用に開発中のジェットエンジンを気球から落下させ、超音速状態て燃焼試験をする計画も進んでいます。
Q: ほかにも“面白いこと”をいろいろ考えていそうですね。
月面にピンポイントで着陸する技術もそうですし、いくらでもありますよ。でも、子どものアイデアにはかないませんね。私たちの場合、プロのプライドと専門知識が邪魔をして、新しいことをやるにしても徐々にしか変えられない傾向があります。でも、子どもたちの発想は自由です。多くは荒唐無稽で終わってしまいますが、アイデアの中には、宇宙開発・研究を不連続に大きく変え、花開かせてくれる可能性があると期待しているんです。

子どもたちがいろいろなアイデアを出せる場や機会があるといいですね。宇宙教育センターでも取り組んでいますが、私たち研究者・技術者一人ひとりが、こんな面白いことをやっているんだよ、と子どもたちに伝える努力をすることも重要ではないでしょうか。