宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 宇宙・夢・人 > 第39回:さらに遠くへ、誰も見たことのないところへ

ISASコラム

宇宙・夢・人

さらに遠くへ、誰も見たことのないところへ

(ISASニュース 2007年3月 No.312掲載)
 
宇宙プラズマ研究系助教授 高島 健
たかしま・たけし。
1969年、神奈川県生まれ。
早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。早稲田大学理工学総合研究センター、名古屋大学大学院理学研究科を経て、2002年、宇宙科学研究所次世代探査機研究センター助手。2006年より現職。水星探査計画BepiColombo/MMO衛星システムの検討、粒子検出器の開発、次世代高エネルギー粒子イメージャーの開発と将来ミッション(地球磁気圏編隊観測、木星探査)の検討を行っている。
Q: 宇宙に興味を抱いたきっかけは?
小学生のころ、アメリカの探査機ボイジャーが木星や土星に行って、鮮明な写真を地球に送ってきました。そのとき、「実は、この写真は何時間も前の木星の姿です。木星はとても遠いため、電波の速さでも何十分もかかるのです」という説明を聞きました。過去の姿しか見ることができないなんて、宇宙は広いのだなと、興味を持ち始めました。
Q: 大学ではどの分野に進んだのですか。
学部の4年生になるとき、研究室を選びます。最初は、宇宙論を研究する理論の研究室に行こうと思っていました。そんなとき、学生実験の授業で表面物性が専門の教官がこう言ったのです。「実験屋は、実験をやって自然現象を自分の目で見ることができる。その観測や観察結果に基づいて理論を新たにつくることもできる」。なるほど! と思い、実験の研究室へ行こうかなと考え直しました。

その後、研究室の合同説明会があり、ほとんどの先生は学生に来てほしいので、うちの研究室はこんな面白いことをやっている、と丁寧に説明してくれました。ところが、後に師匠(?)となる道家忠義先生だけは、実験で忙しいからと3時間も私たちを待たせたあげく、自分の研究を一方的に話して、「興味があるんだったら来なさい」と。この先生は本当に研究を楽しんでいるのだと感じて、加速器実験を中心に放射線検出器開発をしている道家先生の研究室に行くことにしたのです。人との出会いは不思議なものですね。
Q: 宇宙研では、宇宙を飛び交う高エネルギー粒子の研究をしているそうですね。
加速器で粒子を加速させるには、さまざまな条件を精密にコントロールする必要があります。ところが宇宙では、地上の加速器では到底つくり出せないような高いエネルギーの粒子が生み出されています。私たちはこんなに苦労して条件を整え、粒子を加速させているのに、宇宙における自然現象はいとも簡単にやっている。しかも理論的な予測よりも高いエネルギーの粒子を生み出している。いったい、どこで、どうやって? それが知りたくて、高エネルギー粒子の観測を始めました。
Q: どのような場所を観測しているのですか。
少しエネルギーは低いのですが、太陽系の中にも粒子が加速されている場所があります。私たちはその現場に探査機を飛ばして、観測を行っています。例えば、地球の周りの磁気圏。そこで加速された粒子が北極や南極に降ってきて、大気とぶつかり光ります。それがオーロラです。私たちは、できるだけ多くの衛星を地球の磁気圏に飛ばして観測するSCOPEという計画や、地球を取り巻く放射線帯を観測するERGという計画を検討しています。水星にも磁気圏があります。今、ESAと共同で水星探査計画BepiColomboを進めていて、MMOという探査機で水星の磁気圏を調べる予定です。
Q: 計画を成功させるには何が必要ですか。
やはり人との出会いやつながりが大切だと思います。ものづくりは一人ではできません。例えば一つのセンサーをつくるのにも、大勢の人がかかわっています。その人たちに面白いと思ってもらいながら、ものづくりを進めることが重要です。より良いものをつくるために議論し、時にはけんかをして、互いのやりたいことを理解し合いながら一つの目標に向かっていく。すると、そういう人たちのつながりで、「こんな技術を使えば解決できるよ」と新しい人や技術に出会い、難問を乗り越えられることがあるのです。
Q: これからの夢は?
木星には、地球よりもけた違いに強い磁気圏があります。私たちは今、木星探査計画を立ち上げようとしています。さらに将来は、より遠くへ、誰も見たことのない現場を目指したいですね、ボイジャーのように。そして次の世代のためにも「そんなミッションは日本ではできないよ」という状況にならないように努力していきたいですね。
Q: 研究で一番うれしい瞬間は?
予想とはまったく違う現象を見つけたとき。それが今の物理法則では説明のつかない現象ならば、最高に面白いと思います。そういった未知の現象に出会えるのは、研究者の中でも一握りの人でしょう。しかし、それを見たいという気持ちは、みんなの心の中にあるはずです。