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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙へのカウントダウン

(ISASニュース 2006年12月 No.309掲載)
 
宇宙基幹システム本部M-Vプロジェクトチーム開発員 餅原義孝
もちはら・よしたか。
1968年、東京都生まれ。
東京都立大学工学部機械工学科卒業。1994年、宇宙科学研究所観測部打上管制課。2003年、宇宙基幹システム本部M-Vプロジェクトチームに配属。通信設備の整備・運用業務、打上げ・実験などにおける管制業務に従事。
Q: ロケット打上げの秒読みを担当されていますね。
前任者の下村和隆さんに初めて会った日、“おまえは声がでかいから、そのうち俺に代わって秒読みをやれ”といきなり言われたんです(笑)。小型のMT-135型ロケット打上げの秒読みから始め、科学衛星の打上げを初めて担当した1997年2月のM-Vロケット1号機は、ちょうど10機目でした。
Q: 普段から秒読みの練習をするんですか。
特に練習はしませんね。仕事が終わった後、発声練習のため、よくカラオケに行くくらいです(笑)。打上げ当日は緊張し過ぎないように心掛けています。実は、M-Vの1号機のとき、緊張し過ぎて頭の中が真っ白になった経験があるからです。打上げの10〜15分前、何かの放送をしてくれと頼まれました。その声は耳に入っていたのですが、内容が頭に入りません。そんなことは、後にも先にもこのとき一度きりです。

M-Vの1号機のときには、私ばかりでなく、みんなの緊張感もすごかったですね。打上げの2分前からの約1分間は、管制室にいた50名くらいの人も、ほかのセンターで指令電話に付いていた人も、誰も一言も声を発さず、せき払いも聞こえません。まさに水を打ったような静けさでした。M-Vロケットは数多くの人たちが10年以上の歳月をかけて完成させました。その打上げが成功するかどうか、発射から10分足らずで結果が出ます。その緊張感が張り詰めた静けさは、今でも強く印象に残っています。その静寂を打ち破るかのように、打上げ1分前から私は秒読みを開始しました。

そして、打上げが成功したと分かった瞬間、本当に最高でした。しかしそのとき、みんなは抱き合ったり握手をしたりしていたのですが、私だけはカウントアップを続けていました。歓喜の輪にすぐに加われず、少しだけ寂しかったですね。
Q: ロケット発射のとき、管制室はどんな様子ですか。
管制室は、打上げ台から100mくらい離れた場所の半地下にあります。ロケット発射直後は、巨大な衝撃波が頭の上を転がっていくような感じ……。ほかに例えようがないですが、それは管制室にいないと経験できないもので、我々だけが体感できる特権だと思っています(笑)。
Q: 管制の仕事のやりがいは?
ロケットを打ち上げられる時間帯は決まっています。作業に遅れがあった場合に、的確に指示を出して遅れを取り戻せたときは、とてもうれしいですね。思ってもみないところからトラブルの報告を受けることもあります。私は調子が良いときには、三つくらいの報告を同時に聞き取ることができます。それは学生のとき、バスケットボールをやっていた経験が生きているんだと思います。バスケットボールでは、ディフェンスのとき、ボールを持っている相手だけでなく、違う方向からゴールに飛び込んで来る敵にも注意を向けなければいけません。1点ではなく多点に集中する必要があるのです。そういう経験が、今の管制の仕事に役立っているのだと思います。
Q: なぜ宇宙研を志望したのですか。
国家公務員試験に合格した後に、志望する役所の面接試験を受けるという形でした。いろいろな機関が集まった合同説明会があったのですが、ある省庁などは「真っ先にうちに来なければ採用しません」という感じでした。ところが宇宙研の担当者は「うちには最後に来てください。ほかを全部見てからでないと、うちの良さは分かりません」と言うんです。

実は、そのときまで私は宇宙研の存在を知りませんでした。その言葉がとても印象に残り、実際に宇宙研を訪ねて話を聞いてみると、とても面白そうだと思いました。その後、面接試験を受けて採用され、ロケット打上げ作業の全体を仕切るという面白い仕事に携わるようになりました。すごく幸運ですね。
Q: これからの目標は何ですか。
打上げ当日の作業スケジュールの作成も私が担当しています。M-Vの場合は約12時間にわたるスケジュールですが、次のロケット開発に向けて、もう少しシンプルにして短縮することが課題ですね。そして打上げの回数をもっと増やしていけるといいですね。今はロケットが打ち上がるとニュースになります。しかし、航空機が目的地へ無事に到着してもそれだけではニュースになりませんよね。打上げ成功だけではニュースにならないくらいロケットをたくさん打ち上げて、その成功率も航空機並みかそれ以上。それが究極の目標だと考えています。その目標に向かって一緒に汗を流してくれる若い人がJAXAに来てほしいですね。