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ISASコラム

宇宙・夢・人

固体ロケットの歴史は続く

(ISASニュース 2006年11月 No.308掲載)
 
宇宙輸送工学研究系教授・M-Vプロジェクトマネージャ 森田泰弘
もりた・やすひろ。
1958年、東京都生まれ。工学博士。
1987年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学客員研究員を経て、1990年4月、宇宙科学研究所システム研究系助手。2003年7月、宇宙輸送工学研究系教授、Mロケット計画主任。同年10月、M-Vプロジェクトマネージャ。ロケットの誘導制御や柔軟宇宙構造物の制御について研究教育活動を行う。
Q: 9月23日のM-Vロケット最後の打上げをM-Vプロジェクトマネージャとして、どういう思いで見ていたのですか。
M-Vを終了し、今後は小型固体ロケットの開発を目指すことが7月に発表され、その影響で実験班の士気が低下してしまわないかと心配していました。しかし、次につなげるためにも、この打上げは絶対に成功させなくてはならない。そんな状況の中で、実験班が最後に見せた意地は見事なものでした。みんなの心が一つになって、今までで最高に美しい打上げだったと思います。
Q: 開発から携わってきたM-Vロケットの終了という発表を、ご自身ではどのように受け取りましたか。
“ずいぶん憮然としていたね”と、M-V終了記者会見の映像を見た人たちから言われました。先頭に立つ私が腐った顔をしているわけにはいきませんが、やっぱり悔しい思いはありましたね。

M-Vは、全段固体で惑星探査までやり遂げる世界最高性能の固体ロケットです。今回の打上げで4機連続成功、信頼性でも胸を張れる段階に入り、本来なら勝負はこれからというときです。しかし、我々もいつかはM-Vを卒業しなければなりません。まずは小型ロケットの形で研究開発を始めるわけですが、その成果を次の段階でより大きなロケットにつなげていけばいい。今では、私の心の中は前向きな気持ちでいっぱいです。これは日本の固体ロケット研究をさらに発展させるための大切な一歩であり、宇宙研を中心に立ち上がろうとしている小型衛星計画を支える立派なミッションなのです。
Q: 小型だからと、後ろ向きに考えるべきではないのですね。
そのとおりです。むしろ、小型という特性を活かし、“世界で初めて”という研究開発要素をどんどん取り入れて実証することができるでしょう。

私の専門は制御工学で、予測と外れた飛び方をしても姿勢を制御できる「H無限大」という新しい理論をM-Vロケットに適用しました。今ではエアコンや車の制御にも使われている理論ですが、M-Vの開発が始まった1990年代初めには、これをロケットに適用しようという冒険者は世界中のどこにもいませんでした。当時私はまだ助手でしたが、若い人にも仕事を任せ新しいことにどんどん挑戦させるというのが、Mロケット文化のよき伝統ですね。それは今でも変わっていません。小型固体ロケットの開発は、自分のアイデアを実現する絶好のチャンスです。特に若い人たちは思い切り自分の可能性に挑戦してほしいと思います。

私は、世界のロケットの手本となるような、新しい時代にふさわしい固体ロケットを作り上げるという野望を持っています。高頻度の打上げに耐えられるように、運用や地上設備を含めた打上げシステム全体をシンプルに最適化したいですね。例えば、今は搭載装置ごとに大掛かりな点検装置が必要です。それを、ロケットにUSBケーブルを一つ挿せば全搭載機器の状態が1台のノートパソコンに瞬時に映し出される、そのくらいドラスティックな改革をしたいと思っています。
Q: なぜ宇宙研に?
『鉄腕アトム』に出てくるお茶の水博士のようになってロボットや宇宙船を作りたい、というのが小さいころの夢でした。小学5年生のときにはアポロが月に着陸し、翌年大阪万博で見た月の石は、私には光り輝いていた。いっそう宇宙にあこがれましたね。そして、私の道を決定付けたのは高校3年生のとき。“宇宙研がハレー彗星の探査をやる”というニュースを聞き、“日本もすごいことをやるなあ、僕もやりたい!”と胸が高鳴りました。その後は、夢の実現に向けて一直線です。

念願かなって、大学院生のときにハレー彗星探査機「さきがけ」と「すいせい」の打上げにかかわることができました。幸せなことに、それから次々と夢がかなっています。私が新しい制御理論を適用したM-Vロケット1号機も無事飛びましたし、プロジェクトマネージャとして指揮した3機もすべて見事な成功でした。次は、小型固体ロケット、そしてM-Vの後継機です。この夢は私一人のものではありません。より良いロケットを飛ばしたいというみんなの情熱が一つになれば、きっとできますよ。