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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙のからくりを知りたい

(ISASニュース 2006年09月 No.306掲載)
 
高エネルギー天文学研究系 助手 中澤知洋
なかざわ・かずひろ。
1974年、横浜市生まれ。理学博士。
2001年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。同年、宇宙科学研究所特別研究員を経て、同宇宙圏研究系(高エネルギー天体物理グループ)助手。専門はX線天文学、X線・ガンマ線観測器開発。
Q: X線天文学がご専門ですね。
X線天文衛星「すざく」に搭載されている硬X線検出器の開発に、大学院時代から1 0 年近く携わってきました。2 0 0 0 年のASTRO-Eの打上げにも立ち会いました。残念ながら打上げが失敗して、その後の撤収作業を手伝っていると、大の大人が何十人も、おいおい泣きながら作業しているんです。その場面は今でも忘れられません。ASTRO-Eの再挑戦をやると聞いて、ぜひ私もかかわりたいと宇宙研に入りました。
Q: 「すざく」が打ち上げられて1年になりますね。
自分たちがつくった検出器が想定通り動いた瞬間、本当にうれしかったですね。この硬X線検出器は、今までの日本のX線天文衛星よりも1桁高いエネルギーのX線を、世界一の感度で見ることができます。自分の手で今までにない性能の検出器をつくって、新しい宇宙の姿を見る。それが私の研究の軸です。

アメリカなどで多いのですが、観測装置をつくったことのない研究者は、こういう性能の観測装置があるから、こんな現象を見ることができるはずだ、という議論をします。それも大切なことなのですが、一方で私たちは、こういう性能の観測装置をつくれば、こんな世界初の成果が出せるはずだ、という議論をします。日本では、装置を開発する人がサイエンスもやるスタイルですが、アメリカでは分業制が主流です。私は日本のスタイルが好きで、アメリカだったらこの分野にいなかったと思います。みんなで装置を開発するのも楽しいし、その装置で観測したデータをもとにサイエンスの議論をするのもすごく楽しい。もともと私は、メカオタク兼宇宙・物理オタクなんです。
Q: 工学や宇宙・物理が好きになったきっかけは?
私が6〜7歳のころ、父が創刊間もない科学雑誌『Newton』を買ってきてくれました。スペースシャトルの特集号で、それを見て“格好いい! ”と思ったんです。それが私の原点です。その特集には、スペースシャトルの仕組みがとても詳しく書いてあって、何度も読み返して楽しみました。中学生のころには、よく自分で宇宙船などの設計をしていました。今から思うと初歩的なレベルですが、専門書を買ってきて自分でいろいろな計算をしてみたり、マニアックな知識をたくさん持っていましたね。そのころの夢は、SFアニメ「機動戦士ガンダム」の影響もあって、自分が生きている間にスペースコロニーをつくることでした。

やがて大学受験のため物理の勉強をして、その面白さにハマりました。世の中で起きる現象の仕組みを説明できる道具として、すごく好きになったのです。大学に入ると、宇宙論など今につながる興味もわいてきました。学科を選ぶときには、航空宇宙工学科に行くか、物理学科にするか悩みました。そのころにはさすがに、私が生きている間にスペースコロニーはつくれそうもないと思いました。隣の恒星へ行くことも技術的に無理。今の技術を飛躍させる何らかの物理理論が必要です。それを研究しようと思って物理学科へ進みました。
Q: 天文観測を選んだ理由は?
学部のとき、宇宙が好きな仲間が4人いました。自主ゼミと称していろいろな勉強を一緒にしていたのですが、あるとき将来を語り合いました。計算がすごくできるやつと直感が鋭いやつは理論へ進め。実験が得意なやつと私は観測に進んで、おまえたちがつくった理論を検証してやろう。そういう壮大な夢を立てたんです。私はX線天文学、もう1人は電波天文学、あとの2人は宇宙論の研究室へ進みました。

私は自分がつくった検出器で宇宙を観測して、宇宙論や物理理論を検証することに興味があります。例えば硬X線検出器の感度を今よりも3〜4桁向上させてブラックホールを観測すれば、今の物理理論では説明できない現象がきっと見えてくるはずです。
Q: 単なるメカオタク・宇宙オタクと、研究者との分かれ道はどこだと思いますか。
それはよく分かりませんが、私は子供のころ、例えばスペースシャトルの全長が何メートルかには興味がありませんでした。100トンのスペースシャトルを2000トンのロケットで打ち上げている。1対20、この比率はどこからくるんだろう。そういうことに関心がありました。物事には理由や仕組み、からくりがある。私は、メカでも宇宙でも、からくりを知りたい。からくりが分かった瞬間のわくわく感、それがたまらなく好きなんです。