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ISASコラム

宇宙・夢・人

“最初の一撃”を求めて

(ISASニュース 2005年9月 No.294掲載)
 
宇宙探査工学研究系助手 福島 洋介
ふくしま・ようすけ。
1968年、東京都生まれ。
1997年、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。同年、宇宙開発事業団開発部員。2003年、JAXA経営企画部企画課開発部員。2004年、宇宙科学研究本部助手。専門は宇宙ロボットの遠隔操作支援システム。小型科学衛星「れいめい」(INDEX)の姿勢制御系プログラムの開発に参加し、現在、運用に携わっている。
Q: 8月24日、小型科学衛星「れいめい」(INDEX)が打ち上げられましたね。
私は「れいめい」の姿勢制御系プログラム(姿勢決定機能)の開発を担当しました。現在は、その運用に携わっています。星の位置や太陽の方向、さらには地球の磁力線の方向から、衛星がどちらの方向を向いているのかを精度よく知るためのプログラムです。自分の姿勢を知った後、観測目標であるオーロラへ向きを変えていきます。
Q: もともと、宇宙ロボットを遠隔操作する支援技術の開発をしていたそうですね。
大学院生のとき、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の開発の一環として、ロボットアームをスペースシャトルに搭載して地上から遠隔操作するMFDという実証試験に参加しました。そのとき私が開発したのが、シャトルの固定カメラでとらえた実写映像とCGを組み合わせて自由に視点を得られる、遠隔操作を支援するプログラムです。例えば目印へロボットアームを移動させる場合、目印の真横や真上からの画像があれば、遠隔操作しやすいですよね。

その後、宇宙開発事業団に入り、技術試験衛星「おりひめ・ひこぼし」のロボットアームを地上から遠隔操作する実験に携わりました。宇宙飛行士の若田光一さんに遠隔操作を試してもらい、スペースシャトルで間近のロボットアームを操作する場合と、地上から遠隔操作する場合の操作性の違いなどを聞きました。そのとき、若田さんが行ったのと同じ操作を私もやってみましたが、まったくかないませんでした。私は1年間くらいその装置を使っていたのですが、若田さんは、やはりさすがです。
Q: 軌道上のロボットを遠隔操作する難しさは?
例えば、データのやりとりに時間がかかることです。地上である指令を出しても、実際にロボットアームが動くのは約1秒後。ロボットアームが物に触れても、地上でそれを知るのは約2秒後です。そのタイムラグを予測して、あたかもリアルタイムで行っているように操作できる支援プログラムの開発を私たちは目指したのです。
Q: 今後、どのような技術を開発してみたいですか。
宇宙開発や探査では、人が操作したり、修理したりできない状況がたくさんあります。宇宙ロボットは、自分で状況判断をして意思決定できるなど、もっと賢くならなければいけません。おそらく数十年後には、人工知能や自律化、自動化などと現在呼ばれている技術を超える発展したシステムができて、あらゆる分野で爆発的に使われていることでしょう。発展したシステムを築くための鍵となる技術の芽は、今、開発されつつあると思うんです。その技術が“最初の一撃”となり、数十年後に大発展する。未来から振り返ると、あの技術が重要だったんだと思うはずです。でも今の私たちには、その技術が何なのかは分かりません。それを、ぜひ私は知りたい。チャンスがあれば、その開発に参加したいと思っています。“最初の一撃”が開発されつつある分野は、多くの優秀な研究者がしのぎを削っている携帯電話のような自律型装置の分野かもしれませんが、高い自律化が求められる宇宙ロボットの分野である可能性も高いと思います。
Q: なぜ“最初の一撃”が知りたいのですか。
人類の進化において、少なくとも4万年前までには、現代人と変わらない脳が完成したといわれています。そのとき、人類は何らかの能力を獲得できたからこそ、今日の繁栄を築くことができたのです。その能力、“最初の一撃”を知りたい。あるいは、約5000年前にエジプトなどで文明が生まれ、人類は大発展しました。そのときにも何らかの“最初の一撃”があったはずです。それらの“最初の一撃”とは何だったのか。複雑な言語を操る能力や文字の発明など諸説ありますが、今となっては分かりませんよね。ただし、その人類史上の“最初の一撃”に匹敵するようなことが、今まさにロボットの世界でなされようとしています。その“最初の一撃”が分かれば、かつて人類に大発展をもたらした“最初の一撃”も分かると思うのです。
Q: ロボットの世界の“最初の一撃”とは何だと思いますか。
例えば、“赤い色”って自分がどう感じているのか、他人へは言葉で説明し切れませんよね。そのような“感じ”を脳科学や認知科学では「クオリア」と呼びます。クオリアをコンピュータ上で表現する技術が“最初の一撃”となり、「ちょっとおかしい」とか、「こっちがいいはずだ」などの“感じ”を持ち、状況判断や意思決定ができるロボットが誕生すると私は予想しています。