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ISASコラム

宇宙・夢・人

開発と教育を結ぶ

(ISASニュース 2004年12月 No.285掲載)
 
宇宙探査工学研究系 水野 貴秀
みずの・たかひで。
1964年、岡山県生まれ。
横浜国立大学大学院工学研究科博士課程後期電子情報工学専攻修了。専門はマイクロ波工学。1993年、マサチューセッツ工科大学客員研究員。1994年、宇宙科学研究所助手。1999年、助教授。月・惑星着陸用レーダーの開発、小型衛星INDEXのサブプロジェクトマネージャーを務める。
Q: 月や惑星への着陸技術を開発しているそうですね。
私が担当しているのは惑星着陸機に搭載する着陸用レーダーです。現在検討されている月着陸機の場合、軌道上から月面へ向かって斜めに降下し、着陸地点の真上10mくらいから制御を切ってストンと垂直降下することを検討しています。着陸用レーダーは、高度約3500〜10mの間、着陸機の高度と速度を測り、制御系へデータを送ります。必要な測定精度は、速度が秒速10cm、高度も10cmくらいと厳しいものです。横方向の速度も正確に測って制御し、最後は真っすぐに降下しないと、着陸脚に大きな負担がかかってしまい、うまく着陸できません。
Q: どのようにしてレーダーで高度と速度を測るのですか。
私たちは、ナノ(10億分の1)秒単位の瞬間的なパルス電波を発射するパルスレーダー方式を選択しました。ある決まった波長のパルス電波を地表へ発射して、戻ってくるまでの往復時間から高度を、ドップラーシフトによる波長のずれから速度を測定します。横方向の速度を測るため、垂直から30度傾けた方向へもパルス電波を出します。

 しかし、100nm(1000万分の1m)の細さで発射したパルス電波のビームが、10倍以上に広がって戻ってきます。そのどこをとらえれば、高度と速度が正確に分かるのか。広がったパルス電波から精度よく高度と速度を導き出す技術を開発しています。

 例えばアポロ計画では、月面に着陸すること自体が大きな目的だったので、着陸しやすい平らな地形を選びました。しかし、科学的に面白い場所はたいてい危険な場所です。安全性の観点ではクレーターの外に着陸したいのですが、理学系の研究者は、クレーターの真ん中にある、地中の物質が露出した場所を見たいと要求する。そこは石ころがごろごろしていて、着陸には危険な場所なんですが、私たちはその中でも比較的安全な場所をピンポイントで選んで着陸する技術を開発しているのです。
Q: 今後、レーダー技術をどのように発展させていきたいですか。
波長の短い電波であるミリ波やサブミリ波を使ったレーダーで、惑星表面の3次元地形図を精度よく描いてみたいですね。とにかく衛星搭載用として役に立つものを作りたい、という気持ちが一番強いです。
Q: もともと工学系に興味があったのですか。
工夫して細かいものを作り上げていくことが好きですね。大学時代は陶芸に熱中して、自分で煉瓦を積んで窯まで作りました。窯の温度が上がって器に塗った釉薬(ゆうやく)が溶けると、朝日のようなきれいな色で光り輝きます。その光り輝く焼き物の様子を見た人は、みんな陶芸に取り憑かれてしまう。自分がデザインして、最初は土くれだったものが形あるもの、使えるものになる。ものができあがってくる喜び。それが僕の心には、この上なく素晴らしいこととして響くのです。
Q: 小さいころの、もの作りの思い出は?
小学校1年生のとき、夏休みの宿題でカブトムシの飼育箱を作りました。僕はカブトムシが土の中に潜る習性を知っていたので、飼育箱に土を入れておきました。しかし学校に持っていくと「水野君、土はいらないんじゃないの?」と先生に言われた。僕は口数が少ない方だったから、「そうですか」と言ったきり反論しませんでした。すると2〜3日して、先生がわざわざ私の家まで謝りに来てくれたんです。「調べてみたら、カブトムシは土に潜ることが分かった。僕が不勉強だったために、貴秀君にあんなことを言ってしまった」と。小学校のほかの先生はあまり覚えていないのですが、その西村先生のことはよく覚えています。すごくいい先生でしたね。
Q: 今は、ご自分が先生の立場ですね。
着陸用レーダーの開発に加えて、オーロラを観測する小型衛星INDEXのサブプロジェクトマネージャーとして学生を指導しています。INDEXは若手技術者・科学者の育成も重要な目的の一つです。学生と一緒にもの作りをするのは、とても楽しいですね。話をしたり、いろいろな作業をさせるうちに、学生の興味や能力、そして性格が少しずつ分かってきます。実際の搭載機器開発や衛星プロジェクトの中で、それぞれの学生の興味や能力に合った適切なレベルの課題を見つけるのは簡単なことではありません。しかし、責任ある良い課題を与えると、実プロジェクトの緊張感の中で学生はあっという間に実力を付ける。若い力に驚かされます。学生が成長する姿を間近で見られることに、教育者として喜びを感じます。すごくうれしいですね。