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ISASコラム

宇宙・夢・人

7つの顔を持ち、熱い宇宙に挑む

(ISASニュース 2013年7月 No.388掲載)
 
宇宙物理学研究系 教授 満田 和久
みつだ・かずひさ。1957年、神奈川県生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。日本学術振興会研究員などを経て、1987年より宇宙研。専門は高エネルギー宇宙物理学。
Q: 多くの職務を兼務されています。
宇宙研の宇宙物理学研究系教授が主務で、研究総主幹、JAXAチーフエンジニア、宇宙研SE推進室長、「すざく」プロジェクトマネージャー、ASTRO-Hプロジェクトサイエンティストを兼務しています。ASTRO-Hに搭載する軟X線分光検出器(SXS)の責任者も入れると7つ。ばらばらな仕事に見えますが、すべて自分が研究者としてやりたいことにつながっています。
Q: やりたいこととは?
宇宙にあるバリオンと呼ばれる普通の物質の平均温度は数百万度だと考えられています。この熱い宇宙がどのように出来上がったのか、その過程を宇宙の始まりからすべて理解したいのです。そのために三つのことを同時にやっています。一つ目は、「すざく」など稼働中のX線天文衛星を使って研究を進めること。しかし、現在の衛星ではできないこともあります。それを可能にするために、2015年打上げ予定のASTRO-Hの開発を進めています。これが二つ目です。しかし、ASTRO-Hでできることの限界も見えています。そこで三つ目として、20年先を見据えた観測装置の研究を行っています。
Q: ASTRO-Hでは、どのような観測を行うのですか。
「すざく」などの観測によって、銀河系の周辺に数百万度の高温ガスが分布していること、銀河団は高温ガスに満ちていることが分かってきました。しかし、それらをすべて合わせても、宇宙に存在すると推定される高温ガスの量の半分にしかなりません。残りの半分はどこにあるのか。銀河系と銀河団の間の領域が最有力ですが、銀河系が明る過ぎて詳しく観測できませんでした。ASTRO-HのSXSで、それに挑みます。
SXSは、銀河団の高温ガスの運動を精密に測定できるので、銀河団が成長する様子を捉えることも可能です。宇宙では、銀河団が連なって大規模構造を形づくっています。銀河団の成長は、大規模構造をつくる過程にほかなりません。大規模構造がつくられる過程を直接見ることも、ASTRO-Hの使命です。
Q: 「はくちょう」「てんま」「ぎんが」「あすか」「ASTRO-E」「すざく」と、6機の衛星に携わってきたそうですね。
幸運でした。そうした経験があることから宇宙研SE推進室長職の声が掛かったのでしょう。「すざく」のX線カロリメータ(XRS)の不具合のほかにも、大小さまざまな失敗を経験しました。失敗には共通性があり、そこから学ぶものがあります。SE推進室では、私の経験も踏まえて、ミッションを確実に実現するための方法を議論し、活動の支援を行っています。
いくつもの職務があると忙しいですが、悪いことばかりではありません。研究には発想の転換が重要です。いくら考えても良いアイデアが浮かばないとき、別なことを考え始めると、ふと先ほどの案件についてアイデアがひらめいたりするものです。
Q: 子どものころから宇宙に興味があったのですか。
小学生のころに住んでいた長野は星がとてもきれいで、物置の屋根に登って星を観察したりしていました。学校でも私の理科好きが知られていたようで、姉の担任がラジオをつくるキットをくれたほどです。それをきっかけに電気回路にも興味を持ち、6年生のときアマチュア無線の免許も取りました。捨ててあったテレビを持ち帰って分解したこともありますね。
そういう経験は今につながっているかもしれません。私たち実験物理屋は、やりたいことを実現する装置がなければ、勉強をして自分でつくるというのが基本です。例えば、ASTRO-Hの次の衛星に搭載する観測装置にはシリコンマイクロマシンの技術が不可欠だと分かり、その分野で有名な研究者のもとで修業したこともありました。
Q: 趣味は?
音楽は昔から好きですね。中学時代ブラスバンド部で、今でもときどきサックスを吹いています。料理も好きで、最近はイタリアンにはまっています。ハーブも育てていました。料理は、人工衛星の開発と似ているところがあります。段取りが重要で、そこで手を抜くと、うまくいきません。
Q: 2015年のASTRO-Hの打上げが楽しみですね。
X線分光観測は、可視光の天体写真と比べると地味で人気がないのが悩みです。でも、分光観測は、そのデータから温度や元素組成、動きなどあらゆる物理を読み取ることができる、とても面白い研究です。どのような見せ方をしたら皆さんにX線分光観測に興味を持っていただけるか、広報戦略を練ろうと思っています。また一つ仕事が増えますね。