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ISASコラム

宇宙・夢・人

「こんなことができたらいいな」を形にしていきたい

(ISASニュース 2013年5月 No.386掲載)
 
基盤技術グループ 開発員 伊藤 文成
いとう・ふみなり。1972年、横浜市生まれ。東海大学工学部工業化学科卒業。総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻博士後期課程単位取得退学。機械設計技術者として企業勤務を経て、2001年に宇宙科学研究所入所。2008年より現職。
Q: 基盤技術グループでは、どのような仕事をしているのですか。
人工衛星やロケットの機械環境試験に関わる試験方法・解析手法の開発を担当し、実際に試験も行います。今日は、小惑星探査機「はやぶさ2」の搭載機器の振動試験を行っています。宇宙研で初めて携わった科学衛星が「はやぶさ」だったので、とても感慨深いです。
Q: 機械環境試験とは?
人工衛星やロケットは、打上げ時に激しい振動や衝撃を受けます。その振動で壊れてしまっては困ります。そこで、それらがどのような揺れ方をするのかの振動特性を調べ、また打上げを模擬した振動や衝撃をかけてそれに十分に耐えられるかの耐振動性を確認します。そうした振動・衝撃試験や、人工衛星やロケットの姿勢を正しく制御するための質量特性試験を、機械環境試験と呼びます。この試験に合格しなければ、打ち上げることはできません。
搭載機器の単体試験、すべての機器を組み上げた状態でのシステム試験など、1機の衛星だけでも試験の回数は膨大です。今は、今年夏に打上げ予定のイプシロンロケットと惑星分光観測衛星、さらに水星磁気圏探査機、X線天文衛星ASTRO-H、ジオスペース探査衛星、観測ロケットなどの試験も動いているので、スケジュールがびっしり詰まっています。
Q: 機械環境振動試験の難しさは?
試験装置には、周波数や加速度などさまざまな物理量を変換したり換算したりした数値を手動で設定しなければいけない箇所がたくさんあります。設定を間違えたら、機器に想定以上の過剰な振動や衝撃がかかってしまい、壊れてしまう可能性があります。また、正確に計測できないと不具合を見逃してしまうことになります。そのようなことが起きないように、数百チャンネルすべてについて一つ一つ丁寧に、しかも一日に何度も設定を確認していく必要があります。
スケジュールが詰まっているので、早く次に進みたいと思ってしまうこともあります。しかし、焦りは禁物。どんな状況でも平常心で、準備と自信が完全に整うまで確認を重ねることが大切です。それでも現場は日々トラブルの連続です。今朝も、試験装置の電源を入れたのに立ち上がらず、焦りました。午後からは復旧作業です。その日のうちに解決しなければ、どんどん予定がずれてしまいますから。知恵を出して24時間以内に何とかする。宇宙研の伝統です(笑)。打上げ前の衛星フライトモデルシステム試験を無事終えたときは、ほっとしますね。
Q: 子どものころから機械が好きだったのですか。
ミニカーが大好きで、いつもいじっていましたね。図鑑も好きでした。特に好きだった『ドラえもん全百科』(1979年、小学館)を今日持ってきました。雲の中にプールをつくってしまう浮き水ガス、重力ペンキ、時間貯金箱……。こんなことができたらいいな、あんなものがあったらいいな、と思いながら見ていました。私が7歳のときに買ってもらった本ですが、今は私の8歳と2歳の娘が楽しんで読んでいます。
Q: 宇宙研への転職を決めた理由は?
実は、募集を見るまで宇宙研という存在を知りませんでした。でも説明会で話を聞き、こんなことができたらいいな、あんなものがあったらいいな、をたくさん実現できる場所だと思いました。入ってみると、想像以上に刺激的な職場でしたね。
Q: 機械環境試験で、こんなことができたらいいな、ということはありますか。
振動試験では振動台の上に機器を載せて水平や垂直に振動させます。機器に想定を超える大きな力がかかったりシステムが緊急停止したりしないように、機器に取り付けたセンサーのデータを瞬時に計測・解析して振動を高精度に制御する必要があります。しかし、振動台に何も載っていない状態ではうまく制御できても、さまざまな特性を持った機器を載せ、さまざまな加振レベルで高精度に振動制御することはとても難しいのです。高精度な振動制御は、基盤技術グループ全体で取り組んでいる大きな課題です。それができれば、宇宙機の研究開発期間の短縮にも大きく貢献できます。
Q: 今後やりたいことは?
宇宙開発の中で、こんなことができたらいいな、あんなものがあったらいいな、を形にしていきたいと思っています。今はワクワクしながらアイデアを温めています。